メタバースの主要プレイヤー


目次

  1. はじめに
  2. メタバースの分類
     2.(1) クローズド メタバース
     2.(2) オープン メタバース
  3. 直近のメタバースプレイヤー
     3.(1) クローズド メタバース
     3.(2) オープン メタバース
  4. おわりに

1. はじめに

近年(特に2020年以降)、COVID-19の流行によって人々がバーチャルなコミュニケーションや体験を求めるようになりメタバースが注目されてきた。ベンチャー企業のみならず、Facebook(現Meta)などの大企業もメタバース事業の立ち上げを企てた。先行事例の創出が上手くいかないケースも見られたが、ゲーム領域を筆頭に一部の事業会社は、メタバースのユースケースを作り出していた。本レポートでは、メタバースの分野について、主要なメタバースについて分類毎に具体例を交えてそれぞれのメタバースの特徴を紹介していく。

2. メタバースの分類

本章ではまず大きなメタバースの分類を解説する。メタバースには様々な分類があるが、メタバースの相互運用性によって分ける「クローズドメタバース」と「オープンメタバース」という分類を仮定する。

2.(1) クローズド メタバース

まずクローズドメタバースについて説明する。そもそも、「クローズド」「オープン」とはどういうことか。クローズドメタバースとは、所有会社が主導となって運営・管理しているメタバースのことである。例えば、コカ・コーラにはコカ・コーラの従業員だけがアクセスできる「コカ・コーラワールド」というクローズド メタバースがある。クローズドメタバースの一般的な特徴は以下の3点である。

  • セキュリティが高い
    メタバースを運営する会社が、メタバース内に規制を設け、危険なな活動を防止するための措置を講じる事ができるためである。
  • コンテンツの品質が担保される
    開発者が厳格な規則やガイドラインに従ってアプリケーションやコンテンツを作成するため、品質が担保されやすくなる。
  • 作成者に収益をもたらす事がでる
    会社または作成者は、メタバースまたは特定の機能またはアイテムへのアクセスに対してユーザーに請求することができる。

2.(2) オープンメタバース

次にオープンメタバースについて説明する。オープンメタバースは複数のプラットフォーム/世界と相互運用性があるメタバースの事である。少し嚙み砕いていうと、あるメタバース上のアバターやデジタルアセットを、他のメタバースでも活用できる世界の事である。オープンメタバースの一般的な特徴は以下の3点である。

  • ソースコードが公開されている
    ソースコードが公開されているため、誰でもコードの加筆修正ができ、仮想世界を作成したり、既存の仮想世界に機能を追加したりできる。
  • 機能追加が容易である
    オープンソースプラットフォームは多くの場合モジュール化されているため、機能の追加または削除が容易に可能である。
  • メタバースをシャットダウンする事が難しい
    中央機関が存在しないため、誰かがオープンソースであるプラットフォームをシャットダウンすることが難しい。

3. 直近のメタバースのプレイヤー

本章では、直近のメタバースのプレイヤーについて、「オープンメタバース」と「クローズドメタバース」に分類してみていく。大きな流れとしては、MetaやFortnite等のメジャーなプレイヤーはクローズド志向が多く、一方、ブロックチェーンを活用した新興プレイヤーはオープン志向が多くなっている。

3.(1) クローズドメタバース

3.(1).① Second Life/セカンドライフ

図1.Second Lifeイメージ 出所:redditより

セカンドライフは、ネット上の3D仮想空間で自分のアバターを操り、他の参加者とコミュニケーションを取ることができるサービスで、2003年サンフランシスコにあるリンデンラボ社により開発された。セカンドライフはどのように発展したのだろうか?セカンドライフはその新規性やメディアの過剰報道も相まって、2006年から2007年にかけ一時はユーザー数が1,000万人を超えるまでに成長した。そして、それに伴い三越やエイチ・アイ・エスをはじめとしたトップ企業が次々とセカンドライフ上に進出してブランド広告を掲載するなど、次世代のPR・マーケティングの場としても発展してきた。しかし、2007年後半からセカンドライフはその勢いを急速に失った。要因は「UI/UXが陳腐」「パソコンの要求スペックが高すぎる」などいくつか挙げられるが、最大の要因は「そこで何もすることがなかった(Nothing to do)」という点である。そのため、ユーザーは次第にログインしなくなり、大企業が数億円を投じ建設した仮想ビジネスセンターも閑散としていき、結果あらゆる企業が広告を撤退するという悪循環に陥ってしまったのである。このような状況を招いた要因は、セカンドライフがSFの「仮想世界」という概念先行で発展する中で、意図せずユーザーファーストでなくなってしまっていたことに他ならない。実際、YoutubeやInstagramなど現在多くのユーザーに利用され続けているプラットフォームを見れば分かるように、プラットフォームはそこでユーザーが何をするのかが非常に重要になる。しかし、当時のセカンドライフでは、小説や映画に出てくる仮想世界のコンセプトをインターネットで表現することが優先され、ユーザーが仮想世界で何をするのかという重要な観点が抜け落ちてしまっていたのである。(レストランや乗り物、パレードがないディズニーランドをイメージしてみてほしい。)

3.(1).② FORTNITE/フォートナイト

図2.FORTNITEイメージ 出所:Epic Gamesより

フォートナイトは、エピックゲームズ社が開発・発売しているバトルロワイヤルゲームで、2017年7月21日の公開初日で100万人、その2週間後には1,000万人を達成し、現在では3.5億人のユーザーを誇る大人気ゲームである。フォートナイトはなぜ人気なのか?フォートナイトがここまで成長した理由はいくつかあるが、何よりもまず「ソーシャル化」という点が挙げられる。元々ユーザーたちはゲームをプレイするためにフォートナイトを利用していたが、今ではコミュニケーションの場としてフォートナイトを利用しており、フォートナイトはただのゲームではなく、SNSへと進化している。仲の良い友人との他愛もない会話がフォートナイト内で行われる中で、エピックゲームズ社は元々のゲーム要素に加えて、「パーティーロイヤル」モードと呼ばれる機能を2020年5月に実装している。元々ユーザーたちはゲームをプレイするためにフォートナイトを利用していたが、今ではコミュニケーションの場としてフォートナイトを利用しており、フォートナイトはただのゲームではなく、SNSへと進化している。仲の良い友人との他愛もない会話がフォートナイト内で行われる中で、エピックゲームズ社は元々のゲーム要素に加えて、「パーティーロイヤル」モードと呼ばれる機能を2020年5月に実装している。それにより、フォートナイトは友人と自由に遊んで過ごす場としての活用がさらに加速しており、今やそれだけにとどまらず、フォートナイト内に設けられた特設ステージでDJライブや映画の上映会などのイベントも開催されるなど、フォートナイトは着々とSNSとしての発展を遂げているのである。(実際、人気ラッパーであるトラヴィス・スコットの音楽イベントに累計で2,700万人が参加するなどリアルなライブ同様の盛り上がりを見せている。)

図3.FORTNITE クロスデバイスイメージ 出所:FORTNITE HPより

また、「クロスデバイス」という戦略も挙げられる。フォートナイトは、様々なパソコンや家庭用ゲーム機に加え、Android端末やiOS端末など、幅広いプラットフォームで展開されており、異なるプラットフォーム間での協力、対戦プレイに対応している。今までのゲームは、プレイするためにデバイスとゲームソフトを買わなければならず、その参加障壁は高いものであった。しかしフォートナイトは、現在誰もが持っているスマートフォンに、アプリを無料ダウンロードするだけでプレイできることもあり、参加障壁が限りなく低い。

3.(1).③ Roblox/ロブロックス

図4.Roblox イメージ 出所:CNBCより

Robloxは多人数で遊べるオンラインゲームプラットフォームで、ペット育成やピザの配達、対戦型シューターなど様々なコンテンツを提供している。昨年には世界全体で月間アクティブユーザー数が1.5億人に到達するほどの盛り上がりを見せており、アメリカの小中学生の半分以上がユーザーといわれるほど大流行している。なぜ人気なのだろうか?Robloxの大きな特徴として、専用ゲームエンジン「Roblox Studio」でユーザー自身が制作したゲームを配信できることが挙げられる。Robloxはノーコードでもある程度3Dのゲーム制作が可能なUGC(User Generated Contents)プラットフォームで、ゲームクリエイターたちの収益化も可能であるため、現在200万人以上のゲームクリエイターが参加するまでのサービスへと成長を遂げた。また、Robloxではゲーム内通貨の「Robux」を通してゲームクリエイター以外の様々なユーザーも収益化が可能となっており、ゲーム以外への活用も拡大している。たとえばシンガーソングライター、エイバ・マックスのバーチャルコンサートがRoblox内にて開催され、アバターに使用できるグッズが販売されたという事例がある。またその他にもファッションブランドの「GUCCI」がブランドの世界観を表す展示を期間限定で実施し、展示空間に入るとアバターがシンプルなマネキンへと姿が変わり、空間を巡るにつれ体験に合わせてマネキンの姿が変化するといった、バーチャルならではの仕掛けも施された事例まで生まれている。このように、Robloxでは完全に独自の経済圏がつくりあげられており、様々な人々が生み出すコンテンツや体験が売買されていることからも次世代メタバースとしてかなり注目が集まっている。

3.(2) オープンメタバース

3.(2).① Decentraland

Decentralandは、2017年頃に立ち上がった歴史の長いメタバース構想のブロックチェーンプロジェクトである。マインクラフトのような自由な世界観の中で、自分の仮想土地や店舗を所有する事ができ、ビジネスを運営することができる。実際に、米ゲーム会社AtaliがDecentralandで運営するオンラインカジノで、アバターを通じてユーザーはゲームを楽しむことができたりする[1]。

図5.Decentraland イメージ(Atari Casino) 出所:Next Finance Tech作成

そんなDecentralandはなぜ人気なのだろうか?1つの理由として考えられているのが、上記で述べた通り、Decentralandは自分自身の仮想空間を所有し、自由にビジネスを運営することができる点である。プロジェクト内で利用できるアイテムやコンテンツを作成・売買することで、MANAという換金可能な通貨を獲得することができる。つまり、プロジェクト内の活動を通じて稼ぐ事が可能(Play to Earn)であることが理由と考えられている。

3.(2).② THE SANDBOX

図6.The Sandbox イメージ 出所:The Sandbox HPより

次に2つ目としてTHE SANDBOXについて解説する。THE SANDBOXはDecentralandと同様に、ピクセルベースのメタバース空間で自由に活動できるエンタメゲームである。同名のゲームから発展したブロックチェーン上のメタバースである。Decentralandと同様に、マインクラフトのようマインクラフトのような自由な世界観の中で、自分の仮想土地や店舗を所有する事ができ、ビジネスを運営することができる。Decentralandとの違いは、あまり大きな違いがなく、THE SANDBOXの方がよりゲームっぽさがあるというメタバース内の世界観くらいである。なぜ人気なのだろうか?こちらもDecentraland同様に、自分自身の仮想空間を所有し、自由にビジネスを運営することができる点である。プロジェクト内で作ったゲームを販売することで暗号資産のSANDという換金可能な通貨※2を獲得することができる。つまり、THE SANDBOXもDecentralandと同様に、プロジェクト内の活動を通じて稼ぐ事が可能(Play to Earn)であることが理由である。また、THE SANDBOXも企業との提携を通じて多数のIPが参入している。国内で有名な例を挙げると、ドイツのスポーツ用品メーカーであるaddidas(アディダス)、日本のゲーム会社であるスクウェア・エニックスといった多様な法人企業と提携を行っている[2][3]。それだけでなく、アメリカの著名なラッパーであるスヌープ・ドッグともコラボレーションしてオリジナルのアバターが利用可能になっており、幅広いIPが参入していることが分かる[4]。

図7.The Sandbox イメージ(スヌープ・ドッグとのコラボレーション) 出所:The Sandbox HPより

4. おわりに

本レポートでは、クローズドメタバースとオープンメタバースに分類して代表的なメタバースを紹介してきた。上記で紹介したメタバースはあくまで一例であり、これ以外にもテックジャイアント、ゲーム開発会社なども競争に参加している。今後は、メタバース内で提供されるコンテンツのクオリティが高まることで、製造業、教育、広告といった新たな分野でもメタバースの適用可能性が高いと予想されている[5]。 このようなリアルな事業がメタバースに展開すると、決裁通貨としての暗号資産やDeFiのユースケースも間接的に増加すると推察される。継続的にメタバース領域の事業の発展に着目していきたい。

参考文献

[1]:米ゲームメーカーアタリがブロックチェーン仮想空間Decentralandでアタリカジノ立ち上げへ MANAは31%急騰. COINTELEGRAPH. https://jp.cointelegraph.com/news/decentraland-s-mana-token-hits-new-ath-with-atari-set-to-build-in-world-casino
[2]:メタバースこそが若年層との接点 NFLもナイキもアディダスも. 未来コトハジメ. https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/sports/h_vol34/?P=2
[3]:The Sandboxとスクウェア・エニックス、「ダンジョン シージ」をメタバースへ - The Sandbox. Medium. https://thesandboxjp.medium.com/the-sandboxとスクウェア-エニックス-ダンジョン-シージ-をメタバースへ-60268edd2069
[4]:スヌープ・ドッグがThe Sandboxに登場 - The Sandbox. Medium. https://thesandboxjp.medium.com/スヌープ-ドッグがthe-sandboxにに登場-9b569bc3649d
[5]:Value creation in the metaverse. McKinsey. https://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/value-creation-in-the-metaverse