Ethereumステーキング:ステーキングの仕組みと報酬


目次

  1. はじめに
  2. Ethereumの特徴とステーキングの概要
  3. ステーキングの仕組みと報酬
  4. Execution Reward
     1. Priority Fee
     2. MEV-Boost
  5. おわりに

1. はじめに

本レポートでは、Ethereumにおけるステーキングの基本的な仕組みと、その報酬の生成方法について説明する。PoS(Proof of Stake)を採用したEthereumで、ノード運用を通じてどのように報酬が得られるかについて学び、ステーキングに必要なノードの役割について理解を深めていく。

2. Ethereumの特徴とステーキングの概要

Ethereumは執筆時点において、最も利用されているブロックチェーンの内の1つであり、スマートコントラクトを用いて様々な取引を行える点が特徴である。日次で百万件以上の取引が行われている。

Ethereumのネイティブ通貨であるEther (以降、ETH) は、Ethereumでの手数料として利用出来るほか、別トークンへの交換、キャピタルゲインを目的として保持するなど様々な利用方法があるが、ETHを利用してEthereumのブロックチェーンに協力することで報酬を得ることが可能であり、これをステーキングと呼ぶ。

このステーキングという仕組みは、Ethereumが採用しているProof of Stake (以降、PoS) と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムに欠かせないものである。Ethereum上の新しい取引を検証し、新しいブロックを追加するためには合意を形成する必要がある。PoSではブロックを追加するノードが、自分の保有するETHを預け金として、ブロックを検証し、新しいブロックを生成する。その際、ETHを預け金としているノードは報酬を得ることができ、これを一般的には”ステーキング”と呼ぶ。

本稿では、ステーキングの報酬について解説することで、Ethereumのノード運用に対する理解を深めることを目的としている。

3. ステーキングの仕組みと報酬

”Ethereumではノード運用を行うと報酬を得られる”と第1章で説明したが、第2章では、その報酬を生み出すステーキングの仕組みを説明する。

ステーキングとは、ノードを運用し、取引を検証し、ブロックを追加して、ブロックチェーンに協力することと説明した。Ethereumのノード運用ではConsensus Node(図1におけるBeacon node)とExecution Nodeの2つノードをペアで実行することでノード運用を行う。これらの2つのノードと、バリデーター(図1におけるValidator)と呼ばれるソフトウェアの3つが協力して、ブロックチェーンに協力することになる。


図1.バリデーターのシステム構造図

出所:https://docs.prylabs.network/docs/concepts/nodes-networks

Consensus Nodeは、ブロックチェーンにおいて、新しいブロックの追加とコンセンサスアルゴリズムによる合意形成を担当するノードである。Consensus Nodeは、ブロック生成者としての役割を持ち、トランザクションの検証や新しいブロックの作成に対してネットワーク全体と合意を形成する。

Execution Nodeは、ブロックチェーンにおいて、トランザクションの実行とスマートコントラクトの処理を担当するノードである。ブロックチェーンに送信されたトランザクションは、Execution Nodeによって検証され、スマートコントラクトの条件に応じて処理される。

このようにConsensus NodeとExecution Nodeはそれぞれ違う役割を果たすものの、協力しながらブロックチェーンにおいて重要な役割を果たす。ノード運用はブロックチェーンの監視と維持という責任があるからこそ、その対価として報酬が得られる。そして、ステーキングでは、それぞれConsensus NodeとExecution Nodeの仕事から報酬が発生するため、報酬はConsensus RewardとExecution Rewardに大別できる。

Consensus RewardはConsensus nodeに由来する報酬であり、Ethereumから発行される報酬である。Ethereumの大型アップデートのあった2022年9月15日から、2023年8月22日現在までに約63万ETHが発行された[9]。一方で、Execution RewardはExecution nodeに由来する報酬であり、取引を実行したいユーザーからの手数料や、後述するMEVの一部が含まれる。Consensus RewardとExecution Rewardの割合は、執筆時点において7:3ほどで[8]、主な報酬はネットワークへの貢献から発生していることがわかる。

4. Execution Reward

Execution Rewardは主にトランザクションの実行とスマートコントラクトの処理に対する報酬であり、ネットワークの利用状況によって変化しやすい報酬でもある。Ethereumを利用して取引を実行したいユーザーが、自分の取引を優先的に処理してもらうために追加で払うPriority Feeと、Block Proposal Rewardと共に、ブロックを提案する場合にのみ獲得するため、報酬獲得の頻度は3か月に1回ほどと低い。Execution Rewardは、(1)ネットワークの優先手数料であるPriority Feeと、(2)オプションで有効にできるMEV-Boostに大別できる。

図2.バリデータの果たす役割とExecution Reward 出所:Next Finance Tech作成

4.(1) Priority Fee

Ethereumで取引を行う際、手数料が発生するが、Priority Feeはトランザクションを発行するEtherumユーザーが、基本手数料(base fee)に加えてさらに追加の手数料(priority fee)を払うことで、取引を迅速に処理させる仕組みである。多くの場合0.01~0.1ETH程度で、ネットワークが混雑していると、Priority Feeが高くなる傾向がある[14]。

4.(2) MEV-Boost

MEV-Boostとは、より収益性の高いブロックをMEV-Boostと呼ばれるソフトウェアを介して取得し、そのBlockを提案することで利益を増幅させる手法のことである。

MEV-Boostを利用するとEthereum以外から追加の報酬を獲得することができる。報酬のばらつきは大きいものの、場合によっては高額な報酬を受け取ることができるため、現在90%以上が利用している。MEV-Boostは、取引を行うユーザーの機会損失ともいえるMEVの一部をSearcherやBuilderを通してバリデーターが受け取る仕組みである。MEV-Boostに関する詳しい情報は、弊社のレポートである”Ethereumノード運用:運用報酬を最大化するMEV-Boostとは?”をご覧頂きたい。

5. おわりに

ここまで、Ethereumのステーキングにおける基本的な仕組みと、Execution Rewardに関して解説した。Execution Rewardはネットワーク利用に依存し、変動があるものの、正しい運用をすることで報酬を最大化できる。次のレポートでは、もう一つの主要な報酬であるConsensus Rewardとペナルティについて詳しく見ていく。

参考文献

[8] : Rated. “Network overview”
https://www.rated.network/overview?network=mainnet&timeWindow=30d&rewardsMetric=average (参照 2023-
08-08)
[9] : ultra sound money. “Supply change” https://ultrasound.money/(参照 2023-08-22)
[14] : Ethereum Improvement Proposals. “EIP-1559: Fee market change for ETH 1.0 chain,” Vitalik Buterin
(@vbuterin), Eric Conner (@econoar), Rick Dudley (@AFDudley), Matthew Slipper (@mslipper), Ian Norden
(@i-norden), Abdelhamid Bakhta (@abdelhamidbakhta), “EIP-1559: Fee market change for ETH 1.0 chain,”
Ethereum Improvement Proposals, no. 1559, April 2019. [Online serial]. https://eips.ethereum.org/EIPS/eip1559.(参照 2023-08-22)