Ethereumステーキング:仕組みとビジネスモデル


目次

  1. はじめに
  2. Ethereumステーキングの概要
  3. ビジネスモデル
     1. ステーキングとは
     2. 報酬の獲得
     3. 罰金の可能性
  4. ステーキング方式と評価
     1. ステーキング方式
     2. 評価軸と項目
     3. 評価
     4. まとめ
  5. おわりに

1. はじめに

本レポートでは、Ethereumのステーキング事業について、その仕組みや報酬、罰金に関する基本的な概要を解説した後、Ethereumのステーキング事業における各方式の詳細な評価を行い、それぞれの利益性や安全性、ローンチ速度などを比較する。まずは、ステーキングの仕組みを理解し、その後、報酬と罰則の仕組みを見ていこう。

2. Ethereumステーキングの概要

2022年9月にEthereumがプルーフ・オブ・ステーク(以下、PoS)に移行して以来、Ethereumステーキングは、投資家や暗号資産交換所などを中心に関心を集めてきた。特に、2023年4月の上海アップデート[1]でステーキングされた資金の引き出しが可能となり、多くの事業者がステーキング事業への参入を検討していると予想される。

本レポートでは、Ethereumステーキング事業(以下、ステーキング事業)の事業性について、調査・分析を行った結果を纏めた。Ethereum ステーキング事業といっても様々なパターンが考えられるが、今回は最も単純な”自己資本を元手にEthereumステーキングを行い報酬を獲得する”という事業について考えている。そのため、本レポートは、事業会社において経営企画や、新規事業企画を担う方が、ステーキング事業を検討する際の参考資料として読んでもらえると幸いである。

3. ビジネスモデル

導入として、ステーキングの概要、獲得する報酬や、受ける罰金などの説明を通して、ビジネスモデルの理解を深めていく。

第1章で定義したステーキング事業は、”自己資本のETHを元手にEthereumでステーキングを行い、対価として報酬を獲得するビジネスモデル”であった。それでは、利益を源泉となるEthereumステーキングとは何だろうか?どのように報酬や罰則が決められるのであろうか?以降の項で解説していく。

3.(1) ステーキングとは

Ethereumステーキングとは、インターネットに接続されたEthereumノードを立ち上げ、32ETHを預け入れて、バリデーターとしてネットワークのコンセンサスに参加することである。バリデーターは、ブロックの提案や検証を通じて、Ethereumネットワークの運営やセキュリティ担保に貢献し、その対価として報酬を獲得する。

3.(2) 報酬の獲得

前項で触れた報酬について解説する。ステーキングでは、ユーザーが運用しているノードの数に応じて報酬を受け取ることができ、多くのノードを運用すれば、より多くの報酬が得られるため、ネットワークへの参加が奨励される仕組みとなっている。また、報酬の内訳としては、Consensus Reward(バリデーターとしての活動に対する報酬)とExecution Reward(トランザクション処理に対する報酬)の2種類で構成されている。Execution Rewardは変動が大きいものの、Consensus Rewardは年単位で見ると比較的変動が少ないため、報酬の下限値の見込みが立てやすく、安定的に資産運用することができる。

3.(3) 罰金の可能性

ステーキングでは、報酬の受け取りとは反対に罰金が課せられる可能性もある。これは、ノードが適切な役割を果たさず、ネットワークの運営やセキュリティに対して、問題を引き起こした場合に適用される。例えば、ノードが不正なブロックを生成したり、適切な手続きを踏まずにステーキングを解除した場合などに課されることがある。ただし、罰金の金額規模はハッキングによる被害損額の金額規模と比較すると、いくらか小さいことが通例である。まとめると、新規事業として展開する際には、比較的安定した利益を見込める一方で、罰金のリスクには注意する必要がある。

4. ステーキング方式と評価

本章では、前章で解説したステーキングの実行方式に関する解説とファンドにおいてどのステーキング方式を選択すべきか評価を行う。

4.(1) ステーキング方式

4.(1).① ソローステーキング

ソロステーキングとは、ユーザー自身が運用するノードに直接ETHをステーキングする方式である。ユーザーはノードを自己管理することで、中間手数料を取られずに、イーサリアムネットワークから報酬を直接獲得できる[2]。

ソロステーキングの利点は、報酬を他の参加者と共有することなく、ノードプロセスに対して完全な制御を持つことができる点である。ただし、プロセス運用においてのオペレーションとセキュリティに関する責任も自身で負う必要がある。

図1. ソロステーキングイメージ 出所:Next Finance Tech作成

4.(1).② SaaS(Staking as a service:ステーキングアズアサービス)の利用

SaaSは、ステーキング代行業者を通してステーキングする方式である。ユーザーは手数料や使用料を支払うことで、ノードの立ち上げおよび運用をアウトソースすることができる[3]。

ソロステーキングと異なる点は、ユーザーはノードのセットアップが不要という点である。ただし、ユーザーの32ETH移転に必要な鍵をプロバイダーに共有しており、セキュリティ観点でのプロバイダーの見極めを入念に行う必要がある。

図2. SaaSの利用 出所:Next Finance Tech作成

4.(1).③ ステーキングプールの利用

ステーキングプールは、多数のユーザーがブロックチェーン上のステーキングサービスに少量のETHを預け入れ、集まった32ETHを元にノードを立ち上げて運用を代行し、報酬をプール内の参加者に分配する方式である[4]。ステーキングプールを用いる場合は、SaaS方式同様、ユーザーはノードのセットアップが不要だがセキュリティーの観点で注意が必要である。また追加で、ETHを預け入れるプールコントラクトに対する精査が必要となる。

図3. ステーキングプールの利用 出所:Next Finance Tech作成

4.(2) 評価軸と項目

新規事業を立ち上げるに際して、3.(1)で述べた各方式の比較を行うため、評価軸を以下に述べる。

  1. 利益性:評価項目としては報酬、初期投資、ランニングコストが挙げられる
  2. 安全性:評価項目としてはセキュリティ、持続性、依存性が挙げられる
  3. ローンチ速度:評価項目としては、開発などを含め、事業立ち上げにかかる期間が挙げられる

4.(3) 評価

4.(2)の評価軸に沿って、各項目の評価を以下に述べる。

表1. ステーキング方式評価 出所:Next Finance Tech作成

4.(3).① ソロステーキング

  1. 利益性
    • 報酬:全額自社の売上となる
    • 初期投資:ノードのセットアップが必要であるため開発コストが必要
    • ランニングコスト:インターネット料金および電気料金以外は不要。月額1万円程度
  2. 安全性
    • セキュリティ:鍵を自身で管理するため安全
    • 持続性:インフラを定期的にメンテナンスすることで、半永久的に持続可能
    • 依存性:ノード運用に必要なインフラ、鍵を自社の管理下に置いているため依存度は低い
  3. ローンチ速度
    • 開発期間:6ヶ月以上。インフラ開発と運用プロセス周りのテストが必要

4.(3).② SaaS

  1. 利益性
    • 報酬:ノード稼働状況による
    • 初期投資:不要
    • ランニングコスト:サービス利用料。月額数千円-数万円程度
  2. 安全性
    • セキュリティ:鍵をプロバイダーに共有することが必要
    • 持続性:サービスが終了しない限り、半永久的に持続可能
    • 依存性:インフラや鍵管理において依存度が高まっているが、運用プロセスは自社のコントロール下にある
  3. ローンチ速度
    • 開発期間: 3ヶ月程度。インフラ開発が発生せず運用プロセス周りのテストが必要

4.(3).③ ステーキングプール

  1. 利益性
    • 報酬:ノード稼働状況による
    • 初期投資:不要
    • ランニングコスト:運用手数料。報酬の10-20%程度
  2. 安全性
    • セキュリティ: スマートコントラクトのセキュリティ精査が必要
    • 持続性:サービスが終了しない限り、半永久的に持続可能
    • 依存性:インフラや鍵管理、運用プロセスにおいて依存性が高まっている
  3. ローンチ速度
    • 開発期間:不要。32ETH以下の少額からでも開始できる

4.(4) まとめ

4.(3)での各項目の評価を踏まえ、各軸毎の評価を以下にまとめる。

  1. 利益性:利益性においては、資金が少ない場合にはSaaSやステーキングプールの方がコストパフォーマンスが良いが、資金が多くなるにつれてソロステーキングの優位性が増す。十分な自己資産を準備して本事業に取り掛かる場合、ソロステーキングの方が向いている。
  2. 安全性:安定性においては、できるだけ依存性が少なく、インシデント発生時に素早く対応ができる方式が望ましい。ソロステーキングがすべての面で優秀であるが、有事の際の一時的なフェイルオーバー先としてSaaSを使用するという選択肢は考えられる
  3. ローンチ速度:ステーキングプールが最も早くローンチでき、ソロステーキングは6ヶ月以上の準備期間が必要である。ただし、競合がまだ市場で優位性を確立していないため重要度は低い

準備可能な資金量によって、向いている方式は異なるが、今回は準備できる資金量が多いと仮定し、ソロステーキング方式を選択する前提で損益分析を行っていく。

2023年4月12日に行われた上海アップデートにより、ステーキングされたETHのロックアップ解除が可能になった。それ以前は、ノードを一旦立ち上げると終了させることができず、ロックされたETHや報酬として得たETHを出金することができなかった

5. おわりに

ここまで、Ethereumのステーキング事業における基本的な仕組みや報酬、そして主要なステーキング方式について解説し、各方式の詳細な評価と損益分析を行った。各方式にはそれぞれのメリット・デメリットがあるが、どの方式を選ぶかは事業者の資金力やリスク耐性に依存する。次のレポートでは、事業計画を立てるための具体的な指針を示す。

参考文献

[1] : Ethereum Foundation. (2023). Shanghai Network Upgrade Specification - Ethereum.org. https://github.com/ethereum/execution-specs/blob/master/network-upgrades/mainnet-upgrades/shanghai.md
[2]:Ethereum Foundation. (2023). Staking - Ethereum.org. https://ethereum.org/ja/staking/solo/
[3] : Ethereum Foundation. (2023). Staking as a Service - Ethereum.org. https://ethereum.org/ja/staking/saas/
[4] : Ethereum Foundation. (2023). Staking Pools - Ethereum.org. https://ethereum.org/ja/staking/pools/