既存金融と分散型金融の融合:Finexify社のファンド評価とリスク分析


目次

1.はじめに
2.. Finexify社について
3. NAV Consulting社について
4. MHA Cayman社について
5. Hampson and Company社について
6. リスク
7. おわりに
参考文献

1. はじめに

2020年以降、DeFi(分散型金融)市場は世界的に成長を遂げ、様々なプロトコルが普及しています。この動向を背景に登場したFinexify社の「DeFi Green Legend Fund」は、暗号資産を活用したファンド運用を行う点で注目されています。本レポートでは、同ファンドに関する後半の情報として、Finexify社の概要や提携企業、さらにリスクについて解説いたします。また、本レポートはFinexify社が独自に開示している資料を基に作成されたものであり、第三者による信頼性の確認や投資の推奨を目的とするものではないことを予めご了承ください。

2. Finexify社について

同社ウェブサイト[1]では、同社に関わる3名の重要人物、Valentin Mihov氏、Gary Guerassimov氏、Emin Mahrt氏についての情報がLinkedinとともに開示されている。Mihov氏は学生時代にアルゴリズムのコンテストにて金メダルを受賞後ソフトウェア・エンジニアリングとアントレプレナーシップでの修士号を取得、2013年に初めてビットコインを購入、2017年にスタートアップ企業にてCTOを経験後、2021年に同社を創業している。共同創業者であるGuerassimov氏は連続起業家であり、2016年に暗号資産の取引所を開設。国際経営管理学の学士を取得している。Mahrt氏は、2012年にビットコインを裁定取引するためのボットを開発。2014年にビットコインを購入後、アドテク企業やEコマース企業を創業。CPOとCOOとしてブロックチェーンを使ったスマートコントラクトのプラットフォームであるエターニティの開発に携わり、2017年に35百万ドルを調達し、同プラットフォームの評価額は10億ドルを超えた。以後、エターニティ・オープンソース財団の理事に就任、2021年にはシュツットガルト証券取引所にCPOとして参画。2022年に欧州地域のディレクターとしてFinexify社に参画している。以上、3名の経営陣についての紹介が開示されているが、同ファンドへの投資を検討している投資家にとっては、経歴の開示は一定の安心感をもたらしていると思われる。

図1. Green Legend Fundの相関図 出所:Finexify社資料よりNext Finance Tech社作成

3. NAV Consulting社について

米国イリノイ州に本社があり、1991年に設立されたNAV Consulting社[5]は同ファンドのミドルやバックオフィスなどのアドミニストレーション業務を担っており、具体的には資金出納などの資産管理、仕訳、伝票起票などの計理、ファンドの組成に関わる実務的なアドバイス、分配金計算、各種レポーティングなどを行っている行っている。同社はHedge Week誌などにおける暗号資産のファンド・アドミニストレーション部門で1位を獲得した実績があり、2014年から運用業界の主要誌により毎年何かしらの賞を受賞している。HFM Insights社による調査によれば、2020年においてヘッジファンドを顧客として持つアドミニストレーターのなかでNAV Consulting社の評価は業界大手であるState Streetなどを差仕置き、1位となっている。顧客維持率は99%を誇り、主に新興国投資、先物、ロングショート、プライベートエクイティなどのオルタナティブ投資を行うファンドを顧客層として持ち、顧客数は全世界合計2200社にものぼる。同社が管理している金額は2100億ドルであることから、業界トップクラスと言っていいだろう。同社は暗号資産に特化した経験豊富な専門家のチームも擁していることが強みになっており、コンプライアンスと規制を遵守する面においてサポートを提供している。同ファンドのようなDeFiに投資するファンドも顧客として受け入れており、Sarson FundsというDeFiファンドをウェブサイト上ではケーススタディの一つとしてアピールしている。

4. MHA Cayman社について

同ファンドの監査を担当しているMHA Cayman社[6]は、設立が1869年に遡るイギリスのBaker Tilly International社グループの一員あり、ケイマン諸島に本社を構えている会計・監査事務所である。2022年におけるグループ全体の売上は47億ドルにのぼり、単体では142万ポンドとなっている。グループ企業の一員として、4万人以上の従業員と700ヶ所以上のオフィスを含むグローバルネットワークを利用できることが強みだと言える。なお、単体は1100人程度、18カ所のオフィスを有している。MHA Cayman社は暗号資産やプライベートエクイティなどあらゆる種類のファンドを顧客として取り扱うことができる。パートナーであるNiall McAuliffe氏は監査業界において15年以上の経験あり、2022年にMHA Cayman社に参画した。以上のことから、監査面でも実績と経験豊富な企業が担当しており、同ファンドの投資家にとっては一定の安心感があると言えよう。

5. Hampson and Company社について

2010年に設立されたHampson and Company社[7]はケイマン諸島に本社を構える法律事務所であり、同ファンドを法律面でサポートしている。パートナーはGraham Hampson氏とPaul Keeble氏であり、経験年数は合計70年を超えており、その他5名の弁護士が在籍している。同社がカバーする領域は金融、紛争、離婚訴訟、不動産、雇用労働、移民関連など多岐に渡る。

6. リスク

流動性供給先におけるハッキングは、懸念されるリスクの一つとして挙げられるだろう。セキュリティの欠陥により、資金が盗難にあうと、同ファンドのパフォーマンスにマイナスの影響が出ることとなる。ただし、同ファンドでは一つのDEXのみに資金を集中しておらず、分散投資が行われていることから、盗難による被害が与えうる同ファンドへの影響は小さいとされている。同ファンド内におけるセキュリティに関しては、タームシートにて「投資家から預かった全ての暗号資産は常時コールドウォレットに保管されており、アクセスするためのルールは業界でも最高水準である」という記載があるが、コールドウォレットに保管した状態でDEX等への流動性供給を行う方法は弊社のリサーチ上存在せず、実際にどのような方法をとっているのかに関しては一定の疑問が残る。また、同ファンドのロックアップ期間は12ヶ月であるが、この点も注意が必要かもしれない。この長さの捉え方は人それぞれだが、そもそも同ファンドは長期的投資家を顧客対象として掲げているので、最低でも1年は資金を動かさないことが求めれる。しかし、暗号資産業界における投資家の行動は投資というより投機というべきであり、伝統的資産に関わる投資家よりも、さらに短期的な結果を追求する傾向にあるのは明らかであろう。この点において、同ファンドと投資家側に一種のジレンマがあると言える。

7. おわりに

2022年第四半期時点では投資を検討するに値したが、2023年における同ファンドに関する開示情報がないことが最も大きな懸念事項とみられる。12ヵ月のロックアップと成功報酬の高さも気になる点である。さらに、開示されているとおりの高いパフォーマンスを本当に今後も維持できるのかどうかという疑問点も残る。ミドル・バックオフィスなどのインフラ面で、実績があり評判が高い企業を採用している点はポジティブではあるが、投資家は慎重な行動を取るべきと思われる。同社によると将来に向けて、ビットコイン関連のファンドの組成と運用開始が検討されていることから、今後の動向に期待される。

参考文献

[1]:Finexify社 https://www.finexify.com/ethereum-fund
[4]:FAQ https://www.finexify.com/faq
[5]:NAV Consulting社 https://www.navconsulting.net/
[6]:MHA Cayman社 https://www.mha.co.uk/locations/cayman-islands
[7]:Hampson and Company社 https://www.hampsonandco.com/