frxETH V2:ETH Stakingの基本とLiquid Stakingの進化


目次

  1. はじめに
  2. ETHステーキングとは
  3. The Mergeで何が変化したか
  4. ETH Stakingの4つの方法
     1. 中央集権取引所(CEX): Binance, Coinbase, Kraken…etc
     2. Solo Staking
     3. Staking-as-a-Service
     4. Pooled Staking =Liquid Staking
  5. おわりに

1. はじめに

Ethereumステーキングの導入により、ETH保有者がネットワークの安全性をサポートしながら報酬を得る方法が多様化しました。その中でもLiquid Staking(流動性を持つステーキングトークン)は、DeFiにおいて非常に注目を集めている革新のひとつです。本レポートでは、ETHステーキングの基本から、The Mergeによる変化、そして現在最も利用されている4つのステーキング方法に焦点を当てます。特にLiquid Stakingの進化について深く掘り下げ、従来のステーキングとの違いを理解し、そのメリットとリスクを検討します。

今回は、その中でリキッドステーキングについて触れたレポート「What is Liquid Staking and How is frxETH V2 Radically Changing lt?」を0xlide,Next Finance Techで翻訳を行った。また本レポート(原文)は、2023年6月のレポートであることをご容赦頂きたい。

2. ETHステーキングとは

Staking(ステーキング)とは、Proof of Stake (PoS)型を採用するブロックチェーンにおいてTransactionの検証のために、Networkの参加者が自身の持つTokenをロックするというメカニズムである。Ethereum Networkの場合、Validatorが32ETHをロックしアクティブな状態であること指す。ちなみに、ValidatorはTransactionの処理やブロックデータの保存、ブロックの追加などを担当している。

Validatorは、Ethereumを安全かつ堅牢にするという役割を担っている。

ETH Stakingでは、Validatorに対して適切なブロック構築をするよう促すため金銭的なインセンティブ(報酬)とペナルティ(罰金)の両方が存在する。Ethereum Networkにとって良いValidatorがインセンティブ(報酬)を獲得し、悪いValidatorはロックしたETHからペナルティ(罰金)を徴収される。そうこれは、非常に単純な経済原理に基づいている。

もしも、複数もしくは単体のValidatorが悪意のある行動した場合、"Slashing"と呼ばれるペナルティ(罰金)がそのValidatorのロックする資産(ETH)に対して与えられる。
一方で、適切にブロックを構築したValidatorの場合、インセンティブ(報酬)としてETHが分配される。

3. The Mergeで何が変化したか

2020年12月、当時まだPoWであったEthereum Blockchainに並行し"Beacon Chain"が開始された。Beacon Chainの機能は、ETH Stakingのみで他の機能はまだ許可されていなかった。

2022年9月15日、Etherem Networkは、"The Merge"と呼ばれる大型アップデートを成功させ、エネルギー資源を酷く浪費するProof of Workから、地球環境にやさしいProof of Stakeへと変更した。また、この変更により、EthereumでのTransactionを検証する方法も大きく変更した。The Merge以前のEthereumでTransactionを検証する方法は、Bitcoinに類似しており、ハッシュ値の算出という数学パズルを解くのに数百万台のコンピューターを競争させていた、また、この競争の勝者には新たなToken(ETH)が発行されインセンティブ(報酬)として与えられた。しかし、"The Merge"以後からは、ETHをStakeし、Transactionの検証はValidatorによってされるようになり、またTransactionを検証したValidatorに対してインセンティブ(報酬)が支払われるようになった。

4. ETH Stakingの4つの方法

ETH保有者がETH Stakingをする方法は主に4つの候補が考えられる。

  1. 中央集権取引所(CEX)
  2. Solo Staking
  3. Staking-as-a-Service
  4. Pooled Staking = Liquid Staking

4.(1) 中央集権取引所(CEX): Binance, Coinbase, Kraken…etc

2023年Q1まで、ETH Stakingの最も一般的な方法は中央集権取引所(CEX)であった。Binance, Coinbase, Krakenなど、中央集権取引所(CEX)たちは、1-clickで簡単にETH Stakingができる機能(Service)を顧客に提供した。これによって、顧客は中央集権取引所(CEX)で法定通貨からETHを購入し、それを直接、提供されているカストディアルなETH SatkingのServiceを利用することで気軽にETH Stakingができた。

中央集権取引所(CEX)が提供する一元化されたETH StakingのServiceは、現在でも非常に人気があり、CoinbaseのWrapped Staked ETH(cbETH)は2.1m ETH、Kraken 1.5m,Binance 900k ETH以上を記録している。

中央集権取引所(CEX)が提供するETH Staking Serviceは、ETH Stakingするのにあたって非常に簡単な方法を提供してくれる一方で、その代償として、非常に高い信頼性を前提とし、また、それに加え、規制当局の大きな標的となる可能性が高く、Ethereum networkの検閲耐性を酷く低下させる可能性が高い。

事実、米国では既にこれら全てのStaking Serviceを禁止するよう米証券取引委員会(SEC)が動いており、2023年2月にはKrakenが米証券取引委員会と和解し、米国内の顧客に対するETH Staking Serviceを停止し$30 millionの罰金を支払った。また、同年6月、CoinbaseとBinanceに対しても米証券取引委員会は、両者のETH Staking Serviceが未登録の証券の提供に該当するとして訴訟を起こした。

現在、米国には明確な規制法がなく、中央集権取引所(CEX)が提供するETH Staking ServiceはETH Stakingの方法としては4つの中でもっともリスクが高い可能性がある。

4.(2) Solo Staking

Solo Stakingは、個人でValidator Nodeとして必要なサーバーを起動しソフトウェアを維持し32 ETHをロックする方法である。これは、Ethereum Networkの安全性及び堅牢性を支える上で最良な選択肢である。

しかし、Solo Stakingのリスクとしてソフトウェアとハードウェアの稼働時間を効率的に維持できない場合、Lockした32ETHを危険にさらし、Slashingされる、または維持費がインセンティブ(報酬)を上回り赤字になる可能性がある。

4.(3) Staking-as-a-Service

Staking-as-a-Serviceとは、顧客に代わってサードパーティにあたる会社がソフトウェアとハードウェアの運用を提供するという方法である。顧客は自身の資産(ETH)を預けるだけでETH Staking Serviceを利用できる。Staking-as-a-Serviceは通常、Solo Stakingは避けたいが、ETHをLiquid Staking Tokenへ交換したくない顧客のために提供される。

4.(4) Pooled Staking =Liquid Staking

Liquid Stakingを簡単に説明すると、顧客がETHを別TokenであるLiquid Staking Token(LST)へ交換することで、Validatorの生成するETH Stakingのインセンティブ(報酬)獲得できる方法である。

Liquid Stakingとは、ETH保有者がValidatorに対しておこなう融資である。

顧客がETHをLSTへ交換・mintするたび、事実上、Validatorへの融資をおこなっていることになる。また、顧客はLSTをETHへと交換・Depositすると、ETH Stakingを辞める(= 融資を閉じる)ことになる。顧客はETH Stakingにおいて、十分なセキュリティの保証, Validator Nodeの効率的な稼働, ETH Stakingの報酬を利回りとして還元などを前提として信頼し、Validatorに自身の資産(ETH)を融資する。Validatorが"Slashing"されるとLSToken保有者が融資した資産(ETH)が減少してしまう。顧客はこれを避けるため、Validatorに対し質の高さを要求する。

Liquid Staking ProtocolがLST保有する顧客に対してETH Stakingの報酬の還元やSlashingされた場合の損失を反映する方法には、LST価格の調整又はLST供給量の調整という2種類がある。DeFiではしばしば価格の上昇が好まれるため、Tokenの供給量が調整されるLST(例 stETH)より、価格が調整されるWrapp型(例 wstETH)のLSTが利用/採用される。

上記で述べた箇所以外にも、Liquid Stakingの仕組みは前提とする信頼の箇所-担保保証の仕組み(Validator側の保証金の条件),Validatorに要求されるセキュリテイと機能要件…など-で大きな違いがみられる。次章では、代表的なLiquid Staking ProtocolであるLidoのstETH, RocketPoolのrETH, FraxのfrxETH(V1)のそれぞれの構造を説明しどのような信頼を前提としているのかわかりやすく説明しよう。

4.(4).a Lido: stETH


Lidoは、2020年にサービスを開始したEthereumとPolygon PoSをサポートするLiquid Staking Protocolである。現在、9.6mを超えるETHがStakedされており、DeFi TVL(Total Vaule Locked)は一位である。

stETH(Lidoが発行するLST)に交換・mintすることで、LidoのETH Staking Serviceを利用することできる。自身の資産(ETH)をcontractに送ると、Validatorは融資された資産(ETH)を借りて、ETH Stakingを実行する。

LidoはValidatorをすべて公開しており、集中的に管理している。また、ValidatorとLidoの間ではKYC/AMLの確認や法的契約の締結などのoff-chainで結ばれている。
上記で説明したLidoの仕組みを融資市場に照らし合わせると、ValidatorがETH Stakingで得た報酬のうち手数料を差し引いた分を貸し手であるstETH保有者に利子として還元するということを前提(トラストポイント, 信用担保)としてETHを融資し、Validatorは特定資産の担保なしでETHを借りることができている。

4.(4).b RocketPool: rETH


RocketPoolは、2016年にV1ベータ版を開始したDecentralized Ethereum Staking Pool = EthereumをサポートするLiquid Staking Serviceである。RocketPoolではValidatorではないETH保有者(顧客)とETH StakingをおこないたいValidatorをマッチングしている。

あなたは、rETH(RocketPoolの発行するLST)に交換・mintすることで、RocketPoolのETH Staking Serviceを利用することができる。また、RocketPoolからETHを借用することでValidatorとして貢献することも可能である。

ETHからrETHへと交換・mintする際には0.05%の固定手数料が差し引かれる。また、rETHが価格を調整する方法を採用しているためETH - rETHの交換比率は時期によって決まる。

RocketPoolのValidatorはDecentralizedかつ匿名である。セキュリティの保証として、ValidatorはRocketPoolに対し担保として8ETHもしくは16ETHのdepositと$RPL(RocketPoolのUtility Token)を2.4ETH相当〜Protocolに差し出す必要がある。ValidatorがSlashingされた場合、そのValidatorのRPLは売却され、融資された資産(ETH)を補完する。

また、RocketPoolのValidatorは、ETH Staking報酬の15%を固定手数料として与えられるのに加え、保証金として差し出したETHからのStakingの利回りも獲得できる。
上記で説明した通り、RocketPoolのValidatorはLidoや他のLiquid Staking protocolよりも高い水準でLTV(Loan to Value)が設定されており、またこれに加え借りたETHの最低10%に相当するRPLを差し出す必要がある。これにより他よりValidatorは高い手数料をETH Staking報酬から取ることができる。しかし、この高いLTVを要因としたValidatorへの高い手数料支払いの発生によって、RocketPoolでのETH Stakingの利回り(rETHの利回り)はほとんどの場合でLidoのstETHを下回る。

4.(4).c FraxFinance(frxETH V1): frxETH・sfrxETH

Frax Financeは"最先端のDecentralized Stablecoin"と"それらを支援し強化する機能を担うsub-Protocol"の創出をコア・ミッションとしている。現在、FRAX, FPI, frxETHという3種類のDecentralized Stablecoinを発行しており、それぞれ米ドル、米国消費物価指数、ETHとpegしている。この記事では、frxETHに焦点を当て解説する。

Frax 101: frxETH and sfrxETHからの引用

Frax Financeが開発したLiquid Staking Systemは、2種類のToken: frxETH(Frax Ether)とsfrxETH(Staked Frax Ether) から構成されている。


frxETH(Frax Ether)は、ETH-peg Stablecoinである。frxETHはETH Stakingの報酬は受け取らずETHと非常に高い相関関係を持つ。また、この特徴によりfrxETHはWETH(Wrapped Ether)に類似している。


sfrxETH(Staked Frax Ether)は、ERC-4626 - Tokenized Vault - 規格のTokenであり、StakingされたfrxETHである。sfrxETH保有者はValidatorが獲得したETH Staking報酬を受け取れる。sfrxETHは、供給量を調整するのではなく価格が調整されるTokenな為、時間の経過に比例し価格もゆっくりと上昇する。

frxETH V1の場合、frxETHへと交換されたETH(融資資産)はFraxProtocolのPoolを介して殆どがFrax Core Teamが運用するValidatorへ貸し出される。Frax Core Teamは担保を必要とせず(=LTV 0)にETHを借りることができ、frxETH V1では集中的に管理される。

ETH Stakingの報酬はsfrxETH保有者にのみ還元されfrxETHは受け取れない。しかし、frxETHはsfrxETHに比べ他のDeFi Protocolの多くで運用可能で特にFraxが保有するCRV/CVX boostはCruve V2 LPでの高いAPRを提供している。
融資を閉じたい場合、Curve LPを介しfrxETHを売却するだけである。

5. おわりに

ETHステーキングの方法は様々であり、それぞれの選択肢に長所と短所があります。Liquid Stakingは、その流動性と運用性の面で優位性を持つ一方、技術的な複雑さとリスクも伴います。今後もこの分野は急速に進化していくことが予想され、さらに多様なステーキングオプションが登場することでしょう。ETHステーキングの理解を深めることは、暗号資産運用における重要なステップであり、その選択が将来的な資産の成長に大きく影響する可能性があります。