EigenLayer:提供機能と運営組織基礎的理解
目次
- はじめに
- EigenLayer
1. EigenLayerの背景
2. EigenLayerの概要
3. EigenLayerを通じたリステーキング
4. リリーススケジュール
5. EigenLayerの抱えるリスク - EigenLayer 運営組織
1. チームメンバー
2. 資金調達状況 - おわりに
1. はじめに
前回のレポートではブロックチェーンの基本的なセキュリティ概念について触れたが、ここからは具体的にEigenLayerについて解説していく。EigenLayerの特徴やリステーキングの仕組み、そしてその運営組織であるEigen Labsの活動について詳しく見ていこう。EigenLayerがどのようにセキュリティ課題を克服し、新たなブロックチェーンエコシステムを支えているのかを掘り下げていく。
2. EigenLayer
2.(1) EigenLayerの背景
本章ではEigenLayerについて解説していく。まずは、EigenLayerが登場した背景であるが、はじめにでも触れたが、一般的にEigenLayerが解決しようとしている課題は、簡単化すると2つである。
1つ目は、図1の青丸1に示す通り、新興のAVSがセキュリティを担保するためにかかるコストが高い点である。2.(2)で触れたが、新しくAVSを立ち上げる際にセキュリティを担保するためには、分散化された、多くのバリデーターを集める必要がある。しかし、新しくブロックチェーンを立ち上げるプロジェクトはリソースが限られているため、バリデーター収集に多くの資金を投入するのが難しかったり、多くのバリデーターを管理するために時間が割くのが難しいという課題を抱えている。実際に、図2の通り、新興ブロックチェーンであるEVMOSは、自社で発行したトークンの32%をバリデーターのステーキングリワードにあてるなど、特にコスト面での課題は存在している[2]。
2つ目は、図1の②に示す通り、DAppsのセキュリティ担保の難しさである。というのも、多くのDAppsはミドルウェアに依存している事が多く、そのミドルウェアへの依存が攻撃の対象となる事が多い。つまり攻撃者視点に立つと、DAppsを攻撃しようと思うと、DAppsが使用/依存しているミドルウェアのうち、最もセキュリティが弱いミドルウェアを攻撃すれば良い、となるのである。実際には、ミドルウェアの一つであるオラクルなどが攻撃対象として狙われる。
そこで、それらの2つの課題を解決すべく登場したのがEigenLayerである。
2.(2) EigenLayerの概要
さて、ここからはEigenLayerの概要に話を進める。まずEigenLayerとはどんなプロジェクトか簡単に説明すると、EigenLayerがリステーキングという仕組みを提供する事で、図3のようにAVS(オラクル、ブリッジ、ロールアップ、サイドチェーンなど)がEthereumのセキュリティを借りて、分散したバリデーターを低コストで集めることができるというプロジェクトである。
このプロジェクトによって、AVSの課題をどのように解決しようとしているのだろうか。まず、1つ目の課題については、AVSは新規でセキュリティを準備するより、EigenLayerを通じてセキュリティを準備する方が、認知度によるバリデーター獲得のしやすさなどの観点でコストが低くなると考えられる。また、バリデーターの視点に立つと、EigenLayerのリステーキングは、既にステーキングしているETHを担保に、安定的に追加報酬を得る機会であるため魅力的なのである。故に、セキュリティ担保にかかるコストは今より軽減されると考えられている。
また2つ目の課題については、既にETHをステーキングしている人に、EigenLayerを通じてのリステーキングを促すことで、AVSがイーサリアムのセキュリティを借りられるようになり、セキュリティが向上される。
EigenLayerは、このように新しい暗号通貨のプロジェクトをサポートし、新しいアイデアやビジネスの成長を促進することを狙っている。これによって、暗号通貨の世界で新たな機会とイノベーションが広がることが期待される。
2.(3) EigenLayerを通じたリステーキング
さて、ここからはEigenLayerを通じたリステーキングの方法について見ていく。EigenLayerのホワイトペーパーによると、リステーキングの方法としては大きく4つあり、それぞれ、①ネイティブリステーク(Native restaking)、②LSTを用いたリステーキング(LST restaking)、③ETHを含むペアのLPトークンによるリステーキング(ETH LP restaking)、④LSTを含むペアのLPトークンによるリステーキング(LST LP restaking)と定義している。夫々について、以降で説明していく。
2.(3).a ①ネイティブリステーキング(Native restaking)
リステーカーが、EigenLayerにETHを転送・デポジットして、直接リステーキングするという方法。ただし、ホワイトペーパーによると、既にステーキングをしているバリデーターが、担保資産を引き出す先のアドレスをEigenLayerのアドレスにすることで、ETHをEigenLayerに転送する仕組みとなっている。つまり、L1 であるイーサリアムのBeaconchainからEigenLayerに直接資産を転送させる方法でリステーキング可能である。これによって、EigenLayerはイーサリアムにノードを立てている事業者等にリステーキングを利用できるようにしているとみられる。
2.(3).b ②LSTを用いたリステーキング
リステーカーが、LSTをEigenLayerスマートコントラクトにデポジットして、リステーキングする方法。つまり、L1であるイーサリアムチェーン上にあるStaking Poolから、EigenLayerに資産を転送する方法でリステーキング可能である。これによって、既にLidoやRocket Pool等を通じてステーキングを行っているエンティティが、リステーキングを利用できるようにしている。
2.(3).c ③ETHを含むペアのLPトークンによるリステーキング(ETH LP restaking)
リステーカーが、ETHを含むペアのLPトークンをEigenLayerにデポジットすることで、リステーキングする方法。つまり、DeFiであるDEX(Decentralized Exchange)の中にある、ETHを含む流動性プールをEigenLayerに資産を転送する形になる。これによって、DEX上にETHを含むペアで流動性提供をしているエンティティが、リステーキングを通じて、追加報酬を獲得できるような仕組みになっている。
2.(3).d ④LSTを含むペアのLPトークンによるリステーキング(ETH LP restaking)
リステーカーが、LSTを含むペアのLPトークンをEigenLayerにデポジットすることで、リステーキングする方法。つまり、DeFiであるDEX(Decentralized Exchange)の中にある、LSTを含む流動性プールをEigenLayerに資産を転送する形になる。これによって、DEX上にLSTを含むペアで流動性提供をしているエンティティが、リステーキングを通じて、追加報酬を獲得できるような仕組みになっている。
2.(3).e リステーキングの類型
3.(3).a~3.(3).dを通じて解説してきたリステーキングの方法(①~④)を図示したものが図4になる。
まず、①、②は、図4のOption #1に相当しL1チェーンからEigenLayerに直接資産をデポジットしリステーキングするパターンである。次に③は、図4のOption#2に相当し、DeFiの中の、ETHを含むペアの流動性プールからEigenLayerに資産をデポジットするパターンである。最後に④は、図4のOption #3に相当し、DeFiの中のLSTを含む流動性プールからEigenLayerに資産をデポジットするパターンになっている。
2.(4) リリーススケジュール
ここまで説明してきたEigenLayerは、まだ全てをメインネットでリリースしている状況ではない。図4を見ると分かるように、執筆時点では、LST保有者または、ネイティブ・リステーカーのためのリステーキング機能が可能となった段階である。ここからはホワイトペーパー及び、EigenLabsの戦略責任者Brianna Montgomeryのセミナーを基に、今後の流れを解説していく[3]。
Q3(2023年10月~2023年12月)には、オペレーターテストネットがリリースされる。このフェーズでは、オペレーターがEigenLayerのインフラに慣れ、AVSバリデーションタスクのトライアルを行う時期である。
Q4(2024年1月~2024年3月)には、オペレーターメインネットがローンチされる。先ほどのQ3でのテストを踏まえて、最終化されたプロトコルがメインネットにローンチされる。また、同じフェーズにおいて、AVSテストネットがリリースされる。EigenLabsは現在、複数のプロジェクトと連携して取組を行っているが、EigenLayerの1番のユースケースとしてData AvailabilityサービスであるEigenDAの開発を積極的に推進している。
2.(5) EigenLayerの抱えるリスク
ここまではEigenLayerの良い点を解説してきたが、リスクも抱えている。本項では、EigenLayerの抱えるリスクを2つ説明する。
まず、1つ目はオペレーターによる共謀によって、AVSにリステークされている資産が抜き出されてしまう可能性がある事である。このリスクに対する1つの対応策としては、AVSの設計者がPfC(Profit for Corruption) の値を制限する事である。また他の対応策としては、EigenLayerがリステーキングを行っているオペレーター全体のリステーキング状況を分析する事で、オペレーター同士の共謀によって脆弱性を生み出し得る事危険性があるかどうかを判断する仕組みを通じて解決する事ができる。
そして、2つ目は意図しないスラッシングのリスクである。そもそも、スラッシングとは、EigenLayerにETHをリステーキングしたバリデーターが、ブロックチェーンのルールを破る悪質な行為を行った場合に課せられる罰で、リステーキングした資産(ETH)の何割かを失う事を意味する。EigenLayerにリステーキングする場合は、EigenLayer独自のスラッシング条件と、イーサリアムが定めたスラッシング条件の2つを破ってはいけないという事になる。
3. EigenLayer 運営組織
3.(1) チームメンバー
EigenLayerは、現在プロダクトを開発している段階であり、まだDAO形式を取ってガバナンス運営をしていない。そのため、本項ではEigenLayerというプロダクトを開発しているアメリカにあるEigen labsという組織についてのみ解説していく。
まず、Eigen LabsのCEOのSreeram Kannanについて触れていく。 Linkedinによると、彼はワシントン大学で助教授を務めており、研究テーマは、情報理論を主軸に、通信ネットワーク、機械学習、ブロックチェーンシステムへの応用等と多岐に渡る。また、彼はワシントン大学のブロックチェーン研究所UW Blockchain Labも指揮しており、新しいブロックチェーンインフラストラクチャのプロトコルの設計に従事してきた経歴を持つ[4]。
次に、Eigen Labsのメンバーについて触れていく。Linkedin上には37人が登録されており、メンバーの大半はアメリカに居るようで、出身大学別にみると表1の通り、Carnegie Mellon Universityや、MIT、Stanford Universityなどが並んでおり、アメリカの著名大学の卒業生が多い組織であることが見て取れる。
3.(2) 資金調達状況
前項までは、Eigen Labsの資金調達状況について触れていく。Eigen Labsは執筆時点において、シリーズAラウンドまで終えており、合計6,440万ドルを調達している。各ラウンドでの投資家について見ていく。まず、2022年5月に報告されたプレシードラウンドでは、Coinbase VenturesやPolychain等のブロックチェーン界隈における著名投資家が支援しており、期待感の高いプロジェクトであった事が見て取れる。その後、2022年8月に報告されたシードラウンドでは、暗号資産領域に古くから投資しているBlockchain Capitalがリード投資家として入り、合計1,440万ドルを調達した。因みにBlockchain Capitalは、2013年に設立された暗号資産領域のVCであり、過去の投資実績として、Coinbase、Kraken、Circle、Aave、OpenSeaなどの著名なベンチャー企業に出資してきた実績がある。また、直近では、Chat GPTを開発したサム・アルトマンがCEOを務めるWorldcoinにも出資しており、国内でもニュースにもなっていた[5]。その後、2023年2月に報告されたシリーズAラウンドでは、Blockchain Capitalが引き続きリード投資家として入り、合計5,000万ドルを調達している。
4. おわりに
本レポートでは、EigenLayerについてビジネスサイドの人にもわかりやすく、一般的に纏めた。簡単にまとめると、EigenLayerは、イーサリアムチェーンのセキュリティを販売できるプラットフォームであると表現する事ができる。AVSにおけるセキュリティ担保に係るコストを安価にするプロジェクトであり、今後のEthereumエコシステムの発展に非常に影響を与える存在であると推察される。
しかし、Ethereumの創業者であるVitalik Buterinは、EigenLayerはEthereumのセキュリティに影響を与える可能性があるとして懸念している[6]。例えば、AVSがスラッシングを受けた際には、Ethereumの担保であった資産がスラッシングによって棄損されるため、Ethereumのセキュリティにも問題が出てくる。このように、EigenLayerも実際に利用されるまでには、乗り越えなければいけない課題も抱えている。いずれにせよ、今後も、このプロジェクトについて注意しておく必要がある。