EigenLayer:ブロックチェーンセキュリティに関する基礎知識
目次
- はじめに
- DApps開発におけるEthereumの貢献と課題
- 前提知識
1. ブロックチェーン/DAppsにおける51%攻撃
2. ブロックチェーン/DAppsにおけるセキュリティ担保
3. Liquid Staking Token/Liquid Staking Derivative - おわりに
1. はじめに
多くの方が「EigenLayerとは何か?」「どのような課題を解決するのか?」と疑問を抱いているだろう。EigenLayerは、特にブロックチェーンのセキュリティにおいて新たな仕組みを提供している。これによって、新しいDAppsの開発者が多大なコストを負担せずに、安心して開発できる環境が整備されつつある。
本レポートでは、EigenLayerの基礎となるブロックチェーンの前提知識について説明し、特に51%攻撃やLiquid Staking Token(LST)といった重要な概念に触れながら、EigenLayerがどのようにこれらの課題を解決しようとしているかについて解説していく。
2. DApps開発におけるEthereumの貢献と課題
Ethereumは2015年にリリースされ、ブロックチェーン業界を大きく変えた。2015年以前は、BitcoinというP2Pの送金に特化したブロックチェーンが主流であり、新しい分散型アプリケーション(DApps)を開発するためには新しいブロックチェーンを作る必要があり、セキュリティ面等で多大なコストがかかってしまっていた。しかし、Ethereumの登場により、DAppsを簡単に構築できるようになった。というのも、Ethereumのブロックチェーンが、Ethereum上に構築されたDAppsにセキュリティを提供しており、DAppsの開発者が信頼を獲得するために多大なコストを支払う必要がなくなったのである。
そのような背景もあり、2015年以降今日に至るまで、Ethereum上でのDAppsは多く開発されてきており、他レポートで扱っているUniswap(DEX)、Curve(DEX)等もその一部である。とはいえ、Ethereum上にデプロイされていないサービスも存在しており、それらは自身でセキュリティを担保する必要があり、セキュリティを担保するために、分散化されたバリデーター群を集める必要がある。このようなシステムの事をAVS(Actively Validated Services、以降、AVS)と定義している。EigenLayerのホワイトペーパーによると、AVSにはブリッジや、オラクル、DAレイヤー等があるとされている。
しかし、詳しくは第3章で説明するが、AVSには大きく2つの課題があった。1つは、AVSを立ち上げるために多くのコストがかかってしまう点。2つ目は、AVSがセキュリティを提供するDAppsは攻撃のターゲットになりやすくセキュリティを担保するのが難しい点であった。こういった課題を解決するためにEigenLayerというサービスが提案され、現在実装され始めている。本レポートでは、そういったEigenLayerについて提供機能と、運営組織を簡単に説明していく。
3. 前提知識
EigenLayerについて説明する前に、前提知識をいくつか解説する。
3.(1) ブロックチェーンにおける51%攻撃
さて、2章では、DAppsのセキュリティの話に触れた。DAppsはブロックチェーン上にあるため、オフチェーン のアプリケーションが抱えるリスクの他に、ブロックチェーンのリスクを抱えている。本項では、ブロックチェーンのリスクの1つである51%攻撃に触れていく。
概要としては、ある1つのエンティティがブロックチェーンの全ネットワークの計算力の51%以上を制御する攻撃の事を意図している。もし、51%以上を制御すると、攻撃者は二重支払いなどの悪意のある行為を行うことが可能になる。実際に、ビットコインから分裂した暗号資産「ビットコインゴールド(BTG)」は、2018年5月頃に51%攻撃に遭い、海外の暗号資産取引所で約20億円の被害に遭った。
3.(2) ブロックチェーン/DAppsにおけるセキュリティ担保
では、ブロックチェーンは51%攻撃をどう防いでいるかというと、PoW(Proof-of-Work)、PoS(Proof-of-Stake)などのコンセンサスアルゴリズムを通じて、ブロックチェーンに誤ったトランザクションを追加されないように検証業務を行っている。実際に、Ethereumにおいてはバリデーターと呼ばれる集団がこの検証作業を行っている。そして、悪意のあるエンティティにバリデーターのシェアを一定以上獲得されてしまうと検証業務が正しく行われないため、単一のエンティティがバリデーターを支配しづらいように、様々なエンティティから多くのバリデーターを集めている(=分散化)のである。
上記背景もあり、ブロックチェーンやDAppsにおけるセキュリティは、”分散化された、バリデーターの数”であると解釈できる。
3.(3) Liquid Staking Token/Liquid Staking Derivative
さて、本項ではLiquid Staking Token(以降LST)や、Liquid Staking Derivatives(以降LSD)について導入する。EigenLayerとLST/LSDの関連性は、LST/LSDをEigenLayerにリステーキング(ロックとほぼ同義)することによって、LST/LSDホルダーは報酬を獲得できるという関係である。
それでは、LST/LSDの解説に入っていくが、まずLST/LSDは、ステーキングの資産を代表するトークン化された資産である。ブロックチェーンネットワークでのステーキングは、ネットワークのセキュリティを強化する対価として報酬を受け取るが、ステークされた資産はしばしばロックされてアクセスが制限される。そこでLiquid Staking Tokenの導入により、ユーザーはステークされた資産をトークンとして表現し、これを取引や利用する事ができる。つまり、流動性が向上し、資産のロックインを避けることができるようになり、ステーキングと流動性のニーズの両方を満たすことができる。代表的なLST/LSDのプロジェクトは、LidoやRocket Pool等がある。
4. おわりに
本レポートでは、EigenLayerの背景を理解するために必要な基礎知識について解説した。EigenLayerの重要性をより深く理解するための土台が整ったことだろう。
次のレポートで、具体的なEigenLayerの提供機能やその運営組織について詳しく見ていく。