Velodrome: 概要とトークノミクスの基礎


目次

  1. はじめに
  2. Velodromeとは 
     1. Velodrome v1 
     2. Velodrome v2
  3. Velodromeにおけるve(3, 3)トークノミクス 
     1. veトークノミクスとは 
     2. 3, 3トークノミクスとは 
     3. Velodromeにおけるve(3, 3)トークノミクス
  4. おわりに
    参考文献

エグゼクティブサマリ

  • Velodromeとは、2024年5月時点においてOptimism上で動作する3番目に大きいTVLを誇るDEXである
  • Velodromeはve(3, 3)トークノミクスを導入しており、直近ではLP向けの機能(集中流動性の実装やRelay)を導入している
  • Velodrome以外にもve(3, 3)トークノミクスを導入しているプロトコルが存在する
  • ve(3, 3)トークノミクスを導入するプロトコルはLP向けの報酬を拡充、もしくはガバナンス権の付与の方法に工夫を凝らしている
  • ve(3, 3)トークノミクスを導入するプロトコルにはそれぞれコアユーザーが根付いており、VelodromeがTVLでは最も大きい

1. はじめに

Velodrome[1]とは、2024年5月時点においてOptimism上で3番目に高いTVLを誇るDEXである[2]。VelodromeのTVLはUniswapよりOptimism上で高く、注目が集まる。VelodromeはLPに様々な種類の流動性プールを提供しており、Curve.fiのステーブルスワップのプールやUniswapのような定積型(CPMM)のプールを提供している。本レポートでは、Velodromeの最大の特徴であるve(3, 3)トークノミクスについて解説を行う。ve(3, 3)はCurve.fiのveトークノミクスとOlympus DAOの3, 3トークノミクスを組み合わせたもので、プロトコルのユーティリティトークンの売圧を下げることを企図したプロトコルである。

キーワード:Velodrome、veトークノミクス、3,3トークノミクス、ve(3, 3)トークノミクス、Velodrome Slipstream、Velodrome Relay、Thena、Equalizer、Chronos

2. Velodromeとは

本章では、Velodromeの概要について紹介をする。Velodromeは2022年5月にVelodrome v1として誕生したOptimism上で動作するDEXであり、2023年6月にv2に更新され、2024年1月にCoinbaseに買収された。Velodromeはv1から3章にて解説するve(3, 3)トークノミクスを導入しており、ユーティリティトークンである$VELOが売られる動機を抑制し、LPが流動性をプロトコルに安定的に提供する動機を高めたプロトコルだ。Velodromeはプロトコルに提供される流動性を高めることで、トレーダーが低いトレーディングコスト(スリッページ)でトレードができる環境を整えようとしている。この結果、図1.のように、LPとトレーダーの相乗効果、ガバナンストークンの保有者による投票でプロトコルが繫栄することを狙っている。

図1 Velodromeのフライホイール 出所:VelodromeよりNext Finance Tech作成

2.(1) Velodrome v1

本節では、Velodrome v1の概要について、ve(3, 3)トークノミクスの内容に深入りせずに紹介する。Velodrome v1は先述の通り、2022年5月にプロダクトがOptimism上でリリースされた。Velodrome v1がOptimism上で作られた理由は、Solidlyという別のプロジェクトの開発者であるAlexander Cutler氏によって作られたためだと考えられる。

Velodrome v1の流動性プール[3]は2種類存在し、プロトコルに参加するLPはステーブルプール(以下、「sAMM」)もしくはボラタイルプール(以下、「vAMM」)を選び、流動性を提供する。sAMMはボラティリティが低いトークンのために設計されているプールであり、トークンのペアを(x,y)とし、流動性に関する定数をk とすると、x3y+y3x≥kx3y+y3xkに従う。そのため、トレーダーはsAMMを利用することで一度の取引における金額が大きくても、対象のコインの取引についてはスリッページを抑制できる仕組みとなっている。一方で、vAMMはボラティリティが高いトークンのために設計されているプールであり、トークンのペアを(x,y)とし、流動性に関する定数をk とすると、xy≥kxykに従う。

Velodrome v1におけるトレーディングフィーは両プールにおいてデフォルトで0.02%に設定されていたが、プールによっては1%まで調整されている。トレーディングフィーはVelodrome上でトレードの対象となった通貨で保存される。LPは各プールにたまったトレーディングフィーの半分をLP間で分け合い、残りの半分はve(3, 3)トークノミクス特有のプロトコルに存在するveトークンのホルダーに3章で詳述する条件で分配される。

Velodrome v1では、LPとトレーダー以外にVelodromeのガバナンストークンを保有する$veVELOホルダーが存在する。ガバナンストークンはveトークノミクスに特有の仕組みであるユーティリティトークンのプロトコルへのステーキングによって、入手することができる。ガバナンストークンの保有者は、週次で流動性プールに関する人気投票に参加することができ、投票したプールに対する自分の票の割合に応じたトレーディングフィーの残りを得ることができる。本節ではve(3, 3)トークノミクスについては深入りしないので、ガバナンストークンの保有者に関する説明はこれ以上とどめる。

2.(2) Velodrome v2

Velodrome v2は2023年6月に誕生し、Velodrome v1との違いはトレーディングフィーの柔軟化、集中流動性の導入、UIの改良、Velodrome Relay(3章詳述)が挙げられる。

Velodrome v2には集中流動性が導入された。プールタイプごとのティック幅は、sAMMについては価格の0.5%(ティックスペース50相当)、vAMMについては価格の2%(ティックスペース200相当)、相関の高いステーブルコインやリキッドコインを対象としたプールは価格の0.01%(ティックスペース1相当)、ボラティリティの高そうな新興コインについては20%(ティックスペース2,000相当)としている。集中流動性を導入しているプールについては、「CL1-wstETH/WETH」のように、「CLティックスペース幅-通貨名1/通貨名2」と、図2.の真ん中のプールのように表示される。

図2. 集中流動性を導入したプール 出所:Velodromeより

プールのスワップフィーはVelodrome v1と同様に、プールのタイプごとではなく、プール個別で設定される。そのため、コインのボラティリティに応じて都度プールの手数料をパートナープロトコルなどがVelodromeに依頼することもできる。このように、Velodromeはトレーディングフィーの柔軟化を重視しており、現在は動的にトレーディングフィーを調整するモジュールの開発に取り組んでいる。個人的に、トレーディングフィーの柔軟化はトレーダーを保護することよりも、LPをプロトコルに滞留させるために導入されたように感じる。なぜなら、図3.[4]のようにVelodromeはv2に移行して以降、プロトコルとしての出来高は減っているのかもしれない(図3.上)が、収受するトレーディングフィーは増えている(図3.下)からだ。

図3. Velodrome Financeにおけるトレーディングフィーと出来高の関係 出所:@0xkhmerlab作成のDuneダッシュボードより

Velodrome v2では集中流動性やRelayに加え、新たにVelodrome Slipstreamも導入された。Velodrome Slipstreamとは、ゲージの一種であり、導入された目的はボラティリティの低いプールに参加しているLPの資本効率を上げ、プロトコルへの流動性の供給量を増やすことである。LPはVelodrome Slipstreamを利用することで、流動性のリバランスを自ら調整せずにプロトコルに任せられる。ゲージ報酬は流動性を保つためにタイミングとしては定期的、かつアクティブティック(トレードがなされている価格近辺と判定されるティック)にのみ分配される。LPは提供する流動性を自由に調節できるが、Velodromeにおける流動性を増やすためにunstaked liquidity fee rake/tax(提供していない流動性に対するペナルティ)が導入されている。このペナルティはデフォルトで10%だが、状況に応じて0%から20%の間でVelodromeによって設定される。図3.上において、Velodrome SlipstreamのプールがVelodrome v2のトレードされる出来高の大半を占めており、LPからの流動性も多く集めている。

3. Velodromeにおけるve(3, 3)トークノミクス

本章では、Velodromeが導入しているve(3, 3)トークノミクスについて解説する。ve(3, 3)トークノミクスはAndre Cronjeによって作られ、プロトコルがLPに支払う報酬であるネイティブトークンに売圧がかかりづらくなるトークノミクスである[5]。ve(3, 3)トークノミクスはVelodromeだけが取り入れているものではなく、BNB 上のThena、Fantom上のEqualizer、Arbitrum上のChronos等も導入をしている[6]。ve(3, 3)トークノミクスは、Curve.fiのveトークノミクスとOlympus DAOの3, 3トークノミクスの組み合わせなので、まずはこれらについて紹介する。

3.(1) veトークノミクスとは

ve(3, 3)のveとは”vote escrowed”の略称である。escrowとは預託という意味であり、米国での不動産取引が安全に進められるために発展した公的機関による取引監査制度や、広く物品の売買の代金決済等取引の安全性を確保するサービスを指す。veトークノミクスにおけるveは、ユーザーがユーティリティトークンをロックし、プロトコルへのガバナンスへの長期コミットを約束する代わりに投票権を得る、というエスクロー構造を指す[7]。veトークノミクスを導入しているプロトコルにはescrow accountが存在し、ユーザーはユーティリティトークンをescrow accountに保管する。そのため、実態としてveトークノミクスにおいて、ユーザーはユーティリティトークンをescrow accountを通してプロトコルに預託し、議決権やインセンティブを得ている。veトークノミクスを理解するうえで、下記の要素が重要となる。

表1. veトークノミクスの要素

veトークノミクスの最大の特徴は、ユーザーがガバナンスへのコミットを約束すると同時に、ユーティリティトークンがプロトコルにロックされるのでプロトコルのユーティリティトークンに売られづらくなる構造を持つことである。なぜなら、ロックされたユーティリティトークンは市場で取引されないからだ。veトークノミクスを導入しているプロトコルの参加者には、LP、トレーダーの他に提携しているプロトコルなどもある。veトークノミクスで成り立っているプロトコルのユーザーのうち、ユーティリティトークンをロックするユーザーは下記の流れを体験する。

  1. ユーティリティトークンの入手:ユーザーはユーティリティトークンをLPとしての参加や、Airdrop等によって入手(提携プロトコルやプロトコルの繫栄に重要とみなされる人物等)する。
  2. ユーティリティトークンのロック:ユーザーは、ユーティリティトークンをプロトコルにロックする。ユーザーはロックされたトークンを指定したロックの期間中、使用することができない。
  3. veトークンの発行:ユーザーがトークンをロックするとveToken(vote-escrowed token)がプロトコルから発行される。ユーザーが受け取るveTokenの量は、ユーティリティトークンをロックした量やロックアップ期間によって変化する。
  4. ガバナンス投票:veTokenは、プロトコルのガバナンス投票に参加するために使用される。ユーザーのveTokenの保有量が多いほど、ガバナンス投票における影響力が大きくなる。筆者が認識している範囲では、ガバナンス投票では一般的なプロトコルに関する改良案の可決・否決の投票の他、週次でプロトコル上に存在する流動性プールの人気投票が行われる。人気投票はプロトコル上に存在する優良なプールを決めるためのものであり、プールの流動性を保つうえで重要である。
  5. 報酬の付与:ユーザーは、ユーティリティトークンをロックすることで得られるインセンティブの付与(高いLP報酬やプロトコル収益の分配、人気投票の分配収益等)を受け取る。報酬はプロトコルのユーティリティトークンで付与される。
  6. ロック期間の終了:ロック期間が終了すると、ユーティリティトークンはユーザーに返却される。ユーザーはユーティリティトークンが返却されると再び自由にユーティリティトークンを使うことができるが、veTokenが失効する。

この1.~6.の流れをユーザーはveトークノミクスを導入するプロトコルでは体験することとなる。veトークノミクスにおいて、ユーザーがガバナンストークンを保有する量によってプロトコル内における影響力が異なる。Veトークノミクスを導入する代表的なプロトコルにCurve.fiがあり、Convex Financeとの登場により、Curve WarsというCurve.fiと提携しているプロトコルがveトークンの獲得に奔走する現象が起きた[8]。

3.(2) 3, 3トークノミクスとは

本節では、3,3トークノミクスを説明する前に、理解の補助のためにOlympus DAOについて説明する。Olympus DAOは既存金融の資本主義国家によくみられる中央銀行のような仕組みをユーティリティ兼ガバナンストークンであるOHMの価値を一定とするために、導入している。OHMは様々なトークン(DAI、FRAX、ETH、BTC等)によって価値が最低1DAIと裏付けられている。一点、注意すべき点はOHMがある通貨にペッグされていない点である。Olympus DAOはOHMの価値の貯蔵をプロトコルで管理することしており、他のDEXとは異なり、流動性プールの流動性はOlympus DAOが所有している。そのため、OHMはOlympus DAOが自由にミントもしくはバーンすることで価値が一定となるよう、管理されている。

Olympus DAOが導入している3,3トークノミクスは、プロトコルに参加するユーザーがトークンを売る、Bond(ユーザーからOlympus DAOが流動性を買い、OHMを割り引いて売る)、ステークするという行動を選択できる中で、ゲーム理論的にステークすることを促す概念[9]である。そのため、3,3トークノミクスが機能するプロトコルにおいてもユーティリティトークンには売圧がかかりづらい仕組みとなっている。3,3トークノミクスの名前の由来は、下記表のようにユーザーの行動によって生じる効用はお互いにとってステーキングされると最も高いことを表で表したことにある。

表2. 3,3トークノミクスの由来となる表 出所:Olympus DAOよりNext Finance Tech作成

表2.はユーザーが選択する行動によって起こされる、ユーザーとプロトコルの効用を示す利得表である。理論上、ユーザーはステーキングをすることで高いAPYを実現できた(一時1,000%を超える)ので、OHMをディスカウントで買うよりも効用が高いとされていた。また、Olympus DAOにとってもユーザーがステーキングをすることでOHMの価値を保つことができ、ボンディングで流動性を確保する代わりにOHMの価値が下がるリスクを被るよりも効用が高い、とされている。ユーザーがOHMを売った場合、OHMとOlympus DAOの価値が下がるのでユーザーとプロトコルにとって効用が低くなる。このように、理論的にユーザーはお互いがステーキングを選択することが効用の最大化につながるので推奨され、プロトコルにとっても効用を最大化できる。しかし、2022年1月に82,526のOHMを大量に売られてしまい、表2.のようにユーザーがステーキングを選択しなくなってからトークン並びにプロジェクトの価値が大きく毀損した[10]。

3.(3) Velodromeにおけるve(3, 3)トークノミクス

ve(3, 3)トークノミクスは先述したCurve.fiに代表されるveトークノミクスとOlympus DAOに代表される3, 3トークノミクスを組み合わせた、Solidlyの開発者であるAndre Cronjeによって作られた。VelodromeはSolidlyのプロジェクトをフォークし、誕生したプロトコルである。VelodromeのSolidlyからの改良点は週次排出されていた報酬(以下、「エミッション報酬」)の量の削減によるトークンのインフレーションの防止、プールやプロトコルのホワイトリスト化、トレーダーからプロトコルが徴収するスワップフィーの料率上昇、LPブーストとネガティブヴォーティングの廃止、などである。本節では、Velodromeの仕組みとve(3, 3)に焦点をあてる。

Velodromeが従うve(3, 3)トークノミクスの名前の由来は、①veTokenによるユーティリティトークンをユーザーがロックすることによるガバナンス権の獲得(エスクロー)する仕組みと②ユーティリティトークンを売らずにステークすることがユーザーの取りうる行動の中で最も良い、とするゲーム理論的枠組みである3,3トークノミクスを融合したような思想、を組み合わせているからである。

3.(3).a Velodromeにおけるトークンの分配

Velodromeからは2種類のトークンが発行されており、①ユーティリティトークンであるERC-20規格の$VELOと、②veトークン(NFT形式)のERC-721規格の$veVELO、である。$VELOの入手方法はVelodromeによる初期分配で得る(すでに2022年に実施済み)、もしくはLPとしてプロトコルに参加し、週次で分配されるエミッション報酬を受け取ることである。一方で、ガバナンストークンである$veVELOの入手方法は$VELOをロックすることで手に入れられる。$VELOのロックは常に可能であるため、$VELOが手元にあればユーザーはいつでも$veVELOを追加で取得できる。

また、$veVELOの分配量は$VELOトークンのロックアップ期間と比例する関係で決まる。$VELOのロックアップ期間と$veVELOの分配関係は、1年であれば25$veVELOの分配、4年であれば100$veVELOとなっており、1年と4年の間のロックアップ期間と$veVELOの分配量については線形関係が成り立つ。Velodrome v2からは常にトークンが4年間ロックアップされているように設定(「permalock」)することも可能である。

次に、Velodromeの$VELOの初期分配については表3.の通りになっている。

表3. Velodromeの$VELOトークンの初期配布アロケーション

表3.のとおり、$VELOへの配布はVelodromeに関連するコミュニティ(Velodromeと提携するプロトコルやチェーンのユーザーが主対象と考えられる)に対する割当てが最も多い。コミュニティへの$VELO分配が最も多い理由は、これまでVelodromeのインキュベーションへの貢献に加え、Velodromeの中長期的成長に貢献しそうなユーザーだとVelodromeが考えるからだ。コミュニティの中でも$VELOの受け取れた量は異なっており、$WEVEホルダーが初期配布に占める割合の27%(108,000,000 $VELO)、OPユーザーは18OPユーザーは18VELO)、クロスチェーンのDeFiユーザー(Curve.fi、Convex Finance、Platypus Finance、TreasureDAO、Redacted Cartelを指す)は15%(60,000,000 $VELO)である。

2番目に分配量の割当てが多かった属性はプロトコルであり、$veVELOによる分配を受ける。ここで指すプロトコルは2つの属性を指す。1つ目の属性はVelodromeが今後、自身とOptimismコミュニティの中長期的成長に貢献をしそうなプロトコルを指しており(72,000,000 $veVELOの配布)、TVL、トランザクションボリューム、ユニークウォレット数等を総合的に判断し、10~15個ほど選んでいる。2つ目の属性はプロトコルを通して配布されるGrant用の$veVELOトークンである(24,000,000 $veVELOの配布)。

その他にVelodromeから$VELOの初期分配を受け取る属性はVelodrome財団とOptimism財団、Genesis Liquidity Poolであり、$VELOと$veVELOで分配される。Velodrome財団は、初期に$VELOおよび$veVELOで総額4000万(10%)を割当てられ、$VELO-$USDCなどの主要なプロトコルペアへの投票やプロトコル開発の継続支援に利用された。初期割当ての$VELOすべてが$veVELOとしてベスティングされ、永久にVelodrome Protocolを通じて投票に使用される。また、運営費用や今後の開発を支援するため、初期配布の3%がVelodrome財団のアドレスに割当てられている。これらのトークン発行はVelodrome財団の$veVELO保有を増やすためにロックされたり、プロトコルを通じてインセンティブとして配布されたり、プロトコルの普及と採用を進める様々な活動に利用される。また、チーム報酬(Velodromeの運営の貢献者に対する報酬、と解釈できる)として15,520,816 $VELOが確保された。また、初期分配量の0.5%はVelodrome財団が保有している。保有目的は、Velodromeが初期分配から12ヶ月の間に報酬を財団メンバーに分配する間にVelodromeのガバナンスが希釈化することへの対策である。全てのチーム報酬は2023年6月までに配布が完了し、15,345,334.2 $VELOがチームメンバーから買い戻され、残りが$VELOとして配布された。Optimism財団へは謝礼として、Genesis Liquidity Poolには$VELOの流動性を確保するために配布が行われた。

初期配布とは別に、週次で$VELOトークンはエミッション報酬(エミッション報酬の分配は排出、する)が排出される。Velodrome v1では2022年6月4日から15,000,000 $VELOを起点として週次で1%減る割合が排出されていた。しかし、2023年6月22日にVelodrome v2がリリースとともに、排出量が15,000,000 $VELOに戻された。週次の$VELO排出はLPと既存の$veVELOホルダーに向けられているものであり、LPの受けとるトークンの割合は2つの要素で決まる。1つ目が週次での$veVELOホルダーによる最も流動性を集めるべきプール(いわば人気投票)の集めた票数の割合である。2つ目がLPのプール内における流動性の供給割合である。一方で、既存の$veVELOホルダーを対象にしたリベース報酬がある。リベース報酬の原資は週次の$VELO排出である。リベース報酬が導入された目的は、LPに全ての週次の$VELO排出を配布した場合、既存の$veVELOホルダーの投票力が著しく弱まり、既存のVelodromeユーザーが$VELOを長期的に保有・ロックする動機を殺ぐことを防ぐためである。週次のリベース報酬は、(veVELOの総供給量÷VELOの総供給量)3×0.5×週次の排出量(veVELOの総供給量÷VELOの総供給量)3×0.5×週次の排出量、と計算される。

図4. $VELOの週次の排出量と\$VELOの総供給量の関係

つまり、ロックされている$VELOの割合が高ければ高いほど$veVELOの投票力の希薄化が薄まる。

3.(3).b $veVELOホルダーの投票について

冒頭述べた通り、Velodromeはveトークノミクスに従うので、$veVELOホルダーによる「投票」はVelodromeにおいて重要な要素である。Curve.fiのようにveTokenの投票によって、プロトコルに蓄積されたスワップフィーの投票者への配分割合が決定される。

$veVELOホルダーはエポック毎(週次・毎週水曜日の深夜UTC時間)に最も$VELOの排出を受けるべきプールに関する投票が行われ、この人気投票に参加することでユーザーは$VELOを受け取れる。投票者が受け取ることのできる$VELOはプールが週次で集めたトレーディング手数料や、ブライブ(直訳すると贈賄)すなわちプールが得表を集めやすくするための追加報酬を原資としている。$veVELOホルダーが投票に参加する理由(あるプールの得表数を高くし、プールの流動性を高める)は次の3つが挙げられる。

  1. 1つ目は、投票者があるプールの流動性を増やすことでLPではなく、トレーダー(Liquidity Taker)の立場でプールにおけるトレーディングを行う際にプライスインパクトを減らしたいから
  2. 2つ目は、投票者がプールのLPであり、LP報酬以外にも得票によって報酬を増やしたいから
  3. 3つ目の理由は、投票者があるプールにトレーダーやLPとして参加していないが、得票による投票の分配報酬が欲しいから

上記のような動機が$veVELOホルダーにあると考えられるため、LPやトレーダーは自分が使うプールに票を集める。そのため、Velodromeには、ブライブという機能があり、ユーザー及び投票者はプールに票を集めるために投票者に投票後に分配される追加報酬を定められる。そのため、Velodromeに参加している投票者がLPであれば、投票の報酬は流動性プールの通貨ペアによって各ユーザーに配分される。Velodromeにおける実際の投票画面は下記の通りである。

図5. VelodromeにおけるveTokenの投票画面 出所:Velodromeより

投票画面の「POOLS」には投票対象のプールの基本情報(対象通貨ペア、スワップフィー、投票された$veVELOの価値、得票割合、TVL)が載っている。投票画面の「FEES」には累積されたスワップフィー、「INCENTIVES」にはブライブ額(得票を集めるために投票者が得られる追加手数料)、「TOTAL REWARDS」には「FEES」と「INCENTIVES」を合計した投票者に配られる全報酬額が載っている。プールへの投票者は自らが投じた割合に応じて「TOTAL REWARDS」の分配を木曜日の0時UTC(日本であれば木曜日の朝9時もしくは10時)に受け取ることができる。

3.(3).c ve(3, 3)トークノミクスとRelay

VelodromeのRelayはVelodrome v2から導入され、現状、$veVELO保有者にとって投票報酬を最大化する機能である。

Relayは次の2つの目的で導入された機能である:①投票者の$veVELOのNFTの最大化及び自動管理と②LPにとって報酬の最大化、である。VelodromeがRelayを自らのプロトコルに実装した背景には、DeFiユーザーのUXの改善、が挙げられる[11]。これまでAutomated VaultとDEXが一つのDAppsとして作られることはあまりなかった。Relayとして実装された「veVELO MAXI Relay」は、$veVELOの保有者が投票報酬を最大化し、週次で受け取るリベース報酬と投票報酬を自動的に$VELOに変換・ロックする機能である。Relayを利用者として使用する条件は、$veVELOを最大期間ロックすることである。現状、Relayで$veVELOの保有者向け機能は一つしかないが、Velodromeに認められたパートナープロトコルはRelayを作ることができる。VelodromeによるRelayのプロダクト案に、リベース報酬である$VELOは変えずに、投票報酬はプールと同じ通貨ペアなどによる配分を可能とするアイデア等があげられている。

4. おわりに

本書はVelodromeとve(3, 3)のトークノミクスについて解説を行った。ve(3, 3)トークノミクスはCurve.fiが作ったveトークノミクスとOlympus DAOが作った3,3トークノミクスを融合し、できるだけプロトコルのユーティリティトークンに売り圧力がかからないように設計されたトークノミクスである。

参考文献

[1]: Velodrome Finance. “WELCOME TO VELODROME”. Velodrome Finance. https://velodrome.finance/, (参照 2024-05-19)
[2]: Defi Llama. Optimism – DefiLlama. https://defillama.com/chain/Optimism?volume=true&tvl=true, (参照 2024-05-19)
[3]: Velodrome Finance. “velodrome”. Velodrome Finance. https://velodrome.finance/liquidity, (参照 2024-05-20)
[4]: @0xkhhmer. “Velodrome Protocol Metrics 🚴”. Dune. https://dune.com/0xkhmer/velodrome, (参照 2024-05-20)
[5]: Vesper Finance. “A Closer Look at ve(3,3) | by Vesper Finance | Vesper Finance | Medium”. Medium. https://medium.com/vesperfinance/a-closer-look-at-ve-3-3-522add01b4b5, (参照 2024-05-20)
[6]: Alex Xu. “Unpacking ve(3,3) DEX Innovations: An In-depth Analysis of Velodrome Finance, Thena, Equalizer and Chronos”. Mint Ventures. https://mintventures.fund/pdf/Unpacking-ve(3,3)-DEX-Innovations-An-In-depth-Analysis-of-Velodrome-Finance-Thena-Equalizer-and-Chronos, (参照 2024-05-12)
[7]: Daniel Phillips “What is Vote Escrow?|CoinMarketCap”. Crypto Basics What is Vote Escrow?. CoinMarketCap. https://coinmarketcap.com/academy/article/what-is-vote-escrow, (参照 2024-04-30)
[8]: Nat Eliason. “Field Guide to the Curve Wars: DeFi’s Fight for Liquidty”. Nat’s Crypto Newsletter. https://crypto.nateliason.com/p/curve-wars, (参照 2024-04-30)
[9]: @adityadotb, @upniveau. “What is OlympusDAO and (3,3)? - Treehouse Academy”. What Is OlympusDAO and (3,3)?. Treehouse Academy Guides. https://www.treehouse.finance/treehouse-academy/olympusdao-and-33, (参照 2024-05-05)
[10]: Maxine. “Why Olympus DAO Can’t Sustain its Growth | by Maxine | Coinmonks | Medium”. Medium. https://medium.com/coinmonks/why-olympus-dao-cant-sustain-its-growth-e96b1cd392c7, (参照 2024-05-05)
[11]: Velodrome(🚴,🚴). “Velodrome: Relay. Building on Velodrome | by Velodrome (🚴,🚴) | Velodrome (🚴,🚴) | Medium”. Velodrome: Relay. Medium. https://medium.com/@VelodromeFi/velodrome-relay-d7cf5ff191f1, (参照 2024-05-10)