Velodrome:提供機能の概要


目次

  1. はじめに
  2. Velodromeの提供機能
     1. Velodrome v1
     2. Velodrome v2
  3. おわりに
    参考文献

1. はじめに

Velodrome[1]とは、2024年5月時点においてOptimismのブロックチェーン上でUniswapよりTVLが高く、3番目のDEXである[2]。VelodromeはLPに様々な種類の流動性プールを提供しており、Curve.fiのステーブルスワップのプールやUniswapのような定積型のプールを提供している。本レポートでは、Velodromeの最大の特徴であるve(3, 3)トークノミクスについて解説を行う。ve(3, 3)はCurve.fiのveトークノミクスとOlympus DAOの3, 3トークノミクスを組み合わせたもので、プロトコルのユーティリティトークンの売圧を下げることを企図したプロトコルである。本レポートではVelodromeの機能などの概要について触れていく。また、「Velodrome: Solidlyの後継者となるve(3, 3)プロトコル」レポートにて、ve(3,3)トークノミクスについての詳細な内容や他プロトコルとの比較などを書いているので参考にしていただきたい。

キーワード:Velodrome、veトークノミクス、3,3トークノミクス、ve(3, 3)トークノミクス、Velodrome Slipstream、Velodrome Relay、Thena、Equalizer、Chronos

2. Velodromeの提供機能

本章では、Velodromeの概要について紹介をする。Velodromeは2022年5月にVelodrome v1として誕生したOptimism上で動作するDEXであり、2023年6月にv2に更新され、2024年1月にCoinbaseに買収された。Velodromeはv1からve(3, 3)トークノミクスを導入しており、ユーティリティトークンである$VELOが売られる動機を抑制し、LPが流動性をプロトコルに安定的に提供する動機を高めたプロトコルだ。Velodromeはプロトコルに提供される流動性を高めることで、トレーダーが低いトレーディングコスト(スリッページ)でトレードができる環境を整えようとしている。この結果、図1.のように、LPとトレーダーの相乗効果、ガバナンストークンの保有者による投票でプロトコルが繫栄することを狙っている。

図1. Velodromeのフライホイール 出所:VelodromeよりNext Finance Tech作成

2.(1) Velodrome v1

本節では、Velodrome v1の概要について紹介する。Velodrome v1は先述の通り、2022年5月にプロダクトがOptimism上でリリースされた。Velodrome v1がOptimism上で作られた理由は、Solidlyという別のプロジェクトの開発者であるAlexander Cutler氏によって作られたためだと考えられる。

Velodrome v1の流動性プール[3]は2種類存在し、プロトコルに参加するLPはステーブルプール(以下、「sAMM」)もしくはボラタイルプール(以下、「vAMM」)を選び、流動性を提供する。sAMMはボラティリティが低いトークンのために設計されているプールであり、トークンのペアを(x,y)(x,y)とし、流動性に関する定数をkk とすると、x3y+y3xkx^3 y+y^3 x ≥kに従う。そのため、トレーダーはsAMMを利用することで一度の取引における金額が大きくても、対象のコインの取引についてはスリッページを抑制できる仕組みとなっている。一方で、vAMMはボラティリティが高いトークンのために設計されているプールであり、トークンのペアを(x,y)(x,y)とし、流動性に関する定数をkk とすると、xykxy≥kに従う。

Velodrome v1におけるトレーディングフィーは両プールにおいてデフォルトで0.02%に設定されていたが、プールによっては1%まで調整されている。トレーディングフィーはVelodrome上でトレードの対象となった通貨で保存される。LPは各プールにたまったトレーディングフィーの半分をLP間で分け合い、残りの半分はve(3, 3)トークノミクス特有のプロトコルに存在するveトークンのホルダーに一定の条件に従って分配される。

Velodrome v1では、LPとトレーダー以外にVelodromeのガバナンストークンを保有する$veVELOホルダーが存在する。ガバナンストークンはveトークノミクスに特有の仕組みであるユーティリティトークンのプロトコルへのステーキングによって、入手することができる。ガバナンストークンの保有者は、週次で流動性プールに関する人気投票に参加することができ、投票したプールに対する自分の票の割合に応じたトレーディングフィーの残りを得ることができる。

ve(3, 3)トークノミクスは先述したCurve.fiに代表されるveトークノミクスとOlympus DAOに代表される3, 3トークノミクスを組み合わせて、Solidlyの開発者であるAndre Cronjeによって作られた。VelodromeはSolidlyのプロジェクトをフォークし、誕生したプロトコルである。VelodromeのSolidlyからの改良点は週次排出されていた報酬(以下、「エミッション報酬」)の量の削減によるトークンのインフレーションの防止、プールやプロトコルのホワイトリスト化、トレーダーからプロトコルが徴収するスワップフィーの料率上昇、LPブーストとネガティブヴォーティングの廃止、などである。本節では、Velodromeの仕組みとve(3, 3)に焦点をあてる。

Velodromeが従うve(3, 3)トークノミクスの名前の由来は、①veTokenによるユーティリティトークンをユーザーがロックすることによるガバナンス権の獲得(エスクロー)する仕組みと②ユーティリティトークンを売らずにステークすることがユーザーの取りうる行動の中で最も良い、とするゲーム理論的枠組みである3,3トークノミクスを融合したような思想、を組み合わせているからである。

2.(2) Velodrome v2

Velodrome v2は2023年6月に誕生し、Velodrome v1との違いはトレーディングフィーの柔軟化、集中流動性の導入、UIの改良、Velodrome Relayが挙げられる。

Velodrome v2には集中流動性が導入された。プールタイプごとのティック幅は、sAMMについては価格の0.5%(ティックスペース50相当)、vAMMについては価格の2%(ティックスペース200相当)、相関の高いステーブルコインやリキッドコインを対象としたプールは価格の0.01%(ティックスペース1相当)、ボラティリティの高そうな新興コインについては20%(ティックスペース2,000相当)としている。集中流動性を導入しているプールについては、「CL1-wstETH/WETH」のように、「CLティックスペース幅-通貨名1/通貨名2」と、写真1.の真ん中のプールのように表示される。

図2. 集中流動性を導入したプール 出所:Velodromeより

プールのスワップフィーはVelodrome v1と同様に、プールのタイプごとではなく、プール個別で設定される。そのため、コインのボラティリティに応じて都度プールの手数料をパートナープロトコルなどがVelodromeに依頼することもできる。このように、Velodromeはトレーディングフィーの柔軟化を重視しており、現在は動的にトレーディングフィーを調整するモジュールの開発に取り組んでいる。個人的に、トレーディングフィーの柔軟化はトレーダーを保護することよりも、LPをプロトコルに滞留させるために導入されたように感じる。なぜなら、図3.[4]のようにVelodromeはv2に移行して以降、プロトコルとしての出来高は減っているのかもしれない(図3.上)が、収受するトレーディングフィーは増えている(図3.下)からだ。

図3. Velodrome Financeにおけるトレーディングフィーと出来高の関係 出所:@0xkhmerlab作成のDuneダッシュボードより

Velodrome v2では集中流動性やRelayに加え、新たにVelodrome Slipstreamも導入された。Velodrome Slipstreamとは、ゲージの一種であり、導入された目的はボラティリティの低いプールに参加しているLPの資本効率を上げ、プロトコルへの流動性の供給量を増やすことである。LPはVelodrome Slipstreamを利用することで、流動性のリバランスを自ら調整せずにプロトコルに任せられる。ゲージ報酬は流動性を保つためにタイミングとしては定期的、かつアクティブティック(トレードがなされている価格近辺と判定されるティック)にのみ分配される。LPは提供する流動性を自由に調節できるが、Velodromeにおける流動性を増やすためにunstaked liquidity fee rake/tax(提供していない流動性に対するペナルティ)が導入されている。このペナルティはデフォルトで10%だが、状況に応じて0%から20%の間でVelodromeによって設定される。図3.上において、Velodrome SlipstreamのプールがVelodrome v2のトレードされる出来高の大半を占めており、LPからの流動性も多く集めている。

3. おわりに

本レポートはVelodromeの概要について解説を行った。ve(3, 3)トークノミクスはCurve.fiが作ったveトークノミクスとOlympus DAOが作った3,3トークノミクスを融合し、できるだけプロトコルのユーティリティトークンに売り圧力がかからないように設計されたトークノミクスである。BaseチェーンへのフォークであるAerospaceにおいても、Baseチェーン内でTVLがトップであることなども踏まえると、今後も期待される。

参考文献

[1] Velodrome Finance. “WELCOME TO VELODROME”. Velodrome Finance. https://velodrome.finance/, (参照 2024-05-19)
[2] Defi Llama. Optimism – DefiLlama. https://defillama.com/chain/Optimism?volume=true&tvl=true, (参照 2024-05-19)
[3] Velodrome Finance. “velodrome”. Velodrome Finance. https://velodrome.finance/liquidity, (参照 2024-05-20)
[4] @0xkhhmer. “Velodrome Protocol Metrics 🚴”. Dune. https://dune.com/0xkhmer/velodrome, (参照 2024-05-20)