Panoptic:基本と仕組み
目次
- はじめに
- Panopticとは
1. Panopticの商品背景
2. Panopticの基本と仕組み
3. Panopticの特徴
4. Panopticで計算される重要な指標
3.おわりに
参考文献
1. はじめに
本レポートでは、DeFi上のオプション売買機関(Option Protocol)として機能するPanoptic[1]について紹介する。Panopticは、流動性供給者(以下、LPer)にオプション取引の機会を提供しているプロトコルである。 PanopticはUniswap v3でLPerが被るImpermanent Loss(以下、IL)をヘッジするためのツール、として期待されている。
本レポートでは、Panopticに関する仕組み(プロトコルに存在する主体と関係性、トークンの特徴やPanopticにおけるオプションの定義等)を中心とした商品の仕組みの説明等を行うが、具体的なトレーディング戦略や清算に関する説明は行わない。また、Panopticは2023年7月にベータ版がリリースされたが、レポート執筆時点では未だ正式リリースされていないため、レポート記載の情報が不適切となる可能性がある点に留意いただきたい。
2. Panoptic とは
2.(1) Panoptic の商品背景
Panopticはコーネル大学で応用物理学系のAssistant ProfessorであったGuillaume氏が中心となって作られたプロトコルである。Guillaume氏はUniswap v3のLPerがILを被ることを問題視していたように思われる。彼のMediumやTwitter上には、Uniswap v3におけるLPerのポジションをオプション取引(プットショート)と見立てる記事[2]やILをテーマとする記事[3]がいくつか存在する。そのため、PanopticはGuillaume氏にとってILを解決するプロダクトとして開発された経緯がある、と考えられる。
2.(2) Panopticの基本と仕組み
Panopticの基本は、Uniswap v3とPanopticの間で行われる流動性の移転を既存金融におけるオプショオプションに見立てることである。PanopticのオプションはPanoptionと呼ばれる。以後、本レポートでPanopticのオプションはPanoptionとし、既存金融におけるオプションはオプションとする。Panoptionの取引は表1.の通り、4つの主体から成り立っている。
下記、図1.はPanopticの各経済主体と流動性プールの関係性を表現している。
PanopticはUniswap v3で発行されるLPトークンをPanoptionの原資産として扱うことで、Panoptionの売買を流動性の移転で定義する。そのため、図1.のようにUniswap v3のNon-Fungibleプール(NFPM Liquidity)上にSemi-Fungibleプール(SFPM Liquidity)を実装している。
実装の際(図2.参照)、PanopticはUniswap v3のv3-peripheryのERC721規格のNonFungiblePositionManager.sol(以下、NFPM)をERC1155規格のSemiFungiblepositionManager.sol(以下、SFPM)と置き換えている。SFPMはNFPMが備える基本的な機能を引き継ぎながらもNFPMより30%トランザクションのガスコストを節約している。
2.(3) Panopticの特徴
この節では、Panopticのオプションとプロトコルとしての特徴について説明する。
2.(3).a 無期限性
Panoptionは無期限であるので、既存金融におけるオプションのθが存在しない。
2.(3).b 認可不要性
Panoptic利用者は、自由にPanoptionを売ることができ、買手は売られているPanoptionに限り購入できる。Panopticでは、証券会社のようにオプションを投資家に常時提供できる存在がいない。そのため、Panoptionの買手はPanoptionが売られていることに加え、Streamiaと呼ばれるプレミアムによる収益が見合っていなければPanoptionを購入することはない。
2.(3).c 期中プレミアムの発生
Panopticにおいてプレミアムが買手から売手に支払われるタイミングはPanoptionの売買時ではなく、Panoptionがin-range(オプション取引におけるITMと同義。以下、IR)のときである。つまり、Panoptionがout-of-range(オプション取引におけるOTMと同義。以下、OR)のときは、買手から売手へプレミアムの支払が発生しない。
2.(3).d 高い資本効率
Panopticはオプションを売買する主体がレバレッジをかけてPanoptionの売買を可能としている。
2.(4) Panopticで計算される重要な指標
PanopticはUniswap v3の流動性プールを使い、Panoptionの売買を可能にしている。そのため、PanopticプロトコルはUniswap v3に存在する流動性についても認識する必要がある。本節は、PanopticがPanopticとUniswap v3の流動性を認識する際に、算出される指標(表2.参照)について説明する。
表2にあるプール有効率と担保料率の設定について補足を行う。Panopticは担保料率をプール有効率の値によって柔軟に変更することで、Panoptionの売買需要をコントロールする。プール有効率は、Panopticに正味で属する流動性のうちUniswap v3に移転されている量の比率のことなので、Panopticの売買状況を反映している指標だともいえる。2.(2)で述べた通り、Panoptionを売ることは流動性をPanopticからUniswap v3に移転させることなので、プール有効率が高くなる。Panoptionの売需要が強い状況なので、売りの担保料率を高く設定し、買いの担保料率を低く設定している。一方で、プール有効率が低いときは、売りの担保料率が低く設定され、買いの担保料率が高く設定される。
3. おわりに
Panopticは流動性供給者にとって有益なヘッジツールとなり得るが、リスクも存在する。流動性が低い通貨ペアでPanoptionが存在しない可能性があること、そして手数料が予期せぬ形で高くなるリスクが考えられる。このようなリスクを理解し、取引を行うことが重要だ。次回のレポートでは、Panopticにおけるオプションの売買やその戦略についてさらに深掘りしていく。
参考文献
[1]:Panoptic. “What is Panoptic?”. Panoptic Docs. 2023. https://panoptic.xyz/docs/intro(参照2023-08-27)
[2]:Guillaume Lambert. “Uniswap V3 LP Tokens as Perpetual Put and Call Options.” Uniswap V3 LP Tokens as Non-Expiring Put and Call Options | by Guilluame Lambert. 2021. https://lambert-guillaume.medium.com/uniswap-v3-lp-tokens-as-perpetual-put-and-call-options-5b66219db827 , (参照 2023-08-26)
[3]:Guillaume Lambert. “Calculating the Expected Value of the Impermanent Loss in Uniswap.” Calculating the Expected Value of the Impermanent Loss in Uniswap | by Guillaume Lambert. 2021. https://lambert-guillaume.medium.com/an-analysis-of-the-expected-value-of-the-impermanent-loss-in-uniswap-bfbfebbefed2, (参照 2023-08-26)