米ドル建てステーブルコイン USDCの運営体制 ~ Circle Reserve Fundと信頼性 ~


目次

  1. はじめに
  2. Circle Reserve Fund(ブラックロックの運用)
     1. パフォーマンス(Circle Reserve Fund)
     2. 主要事項(Circle Reserve Fund)
     3. ポートフォリオ性格(Circle Reserve Fund)
     4. 保有銘柄一覧(Circle Reserve Fund)
     5. 資産構成比(Circle Reserve Fund)
  3. 独立会計士報告書(Deloitte &Touche LLP)
  4. おわりに
    参考文献

1. はじめに

ステーブルコインの成功には、その裏付け資産の透明性と信頼性が不可欠である。米ドルに連動するUSDCは、米Circle社が発行する法定通貨担保型ステーブルコインであり、その裏付け資産の運用には、世界有数の資産運用会社ブラックロックが関与している。特に、Circle Reserve FundはUSDCの安定性を支える重要な基盤となっており、そのポートフォリオやパフォーマンスは注目されている。本レポートでは、Circle Reserve Fundの運用状況や、独立した会計士による監査報告をもとに、USDCの信頼性について詳しく解説する。

2.Circle Reserve Fund(ブラックロックの運用)

本章では、前述したBlackRck社によって運用されているCircle Reseve Fundの運用状況に関して解説をしていく。Circle Reserve Fundは政府短期金融市場ファンド(government money market fund:総資産の 99.5% 以上を非常に流動性の高い投資、つまり現金、政府証券、政府証券で完全に担保された現先契約に投資するファンド)であるために非常にリスクの小さい運用を行っている(※4)。

2. (1) パフォーマンス(Circle Reserve Fund)

図1.純資産価額の推移 出所:BlackRock

上記はパフォーマンスグラフはCircle Reseve Fundの運用パフォーマンスを表している(※5)。スケールを1万倍して考えると、基準価格10,000円の投資信託の基準価格が9,9997円から10,004円という非常に狭い範囲で動いているということであり、非常に保守的な運用をBlackRock社が行っているということが理解できる。したがって、あくまでもカストディフィーとマネジメントフィーを稼ぐことを目的に運用を行っていると考えると非常に安定した運用であると言える。

2. (2) 主要事項(Circle Reserve Fund)

図2.ファンドの主要事項 出所:BlackRock

当ファンドに関する基本情報が掲載されている。運用開始が2022年11月3日で、運用コストはトータルで17bpであることがわかる。

2 (3) ポートフォリオ性格(Circle Reserve Fund)

図3.ファンドの主要事項 出所:BlackRock

こちらは当ファンドのポートフォリオ性格を表しているが、日次の流動性資産(Daily Liquid Assets)100%であることが分かる。これは、ポートフォリオの中にロックアップ(売却できない場合があること)や償還ゲート(償還に制限的な上限を設けるメカニズム)の対象としている資産がなく、ポートフォリオの全資産が直ぐに売却可能であることを示している。またポートフォリオの債券の平均残存期間は4日間、1日の利回り(1-day-Yield)が年率5.00%となっている。

2. (4) 保有銘柄一覧(Circle Reserve Fund)

図4-A.保有銘柄一覧上位10銘柄(2023年7月27日現在) 出所:BlackRock

図4-B.保有銘柄一覧残りの6銘柄(2023年7月27日現在) 出所:BlackRock

こちらは当ファンドの保有銘柄を表しているが、満期の短い米国政府証券及び米国政府証券で担保された現先取引(翌日物)のみを保有している。(TRI-PARTY+企業名となっている銘柄は、米国政府証券で担保された現先取引(※6)である。)

2. (5) 資産構成比(Circle Reserve Fund)

  • セクター構成比
図5.セクター構成比(2023年7月27日現在) 出所:BlackRock

こちらは当ファンドのセクター構成比を表しているが、米国国債の現先取引が92.93%、米国国債が7.07%とのポートフォリオになっている。

  • 地理的構成比
図6.地理的構成比(2023年7月27日現在) 出所:BlackRock

こちらは当ファンドの地理的構成比を表しているが、100%米国の証券(米ドル建て)で運用しており、為替リスクも取っていない。

  • 残存期間構成比
図7.残存期間構成比(2023年7月27日現在) 出所:BlackRock

こちらは当ファンドの組み入れ資産の残存期間構成比を表している。残存期間構成比を計算するにあたり、上記表より残存期間7日が74.48%、14日が5.78%、30日が13.14%、60日が4.27%、90日が2.33%として計算しても、ポートフォリオの平均残存期間は14.62日となる。

  • 信用格付構成比
図8.信用格付構成比(2023年7月27日現在) 出所:BlackRock

こちらは当ファンドの信用格付構成比を表している。S&Pのレーティングに換算してすべての資産がA-1+のレーティングであることが分かる。

ここで、Circle Reseve Fundの安全・安定運用性の参考として、日本国内にあるMRF(マネー・リザーブ・ファンド)のポートフォリオ性格を比較してみる(※7)。日本のMRFは安全性の高い公社債などで運用される投資信託で、運用資産に株式は含まれていない。MRFは元来は証券界が銀行の普通預金のような商品がほしいということで開発されたものであるために、証券口座を開設する際に、MRFの申し込みをしておくと、証券口座へ入金した現金や株式などを売却した現金は自動的にMRFで運用される(MRF以外の有価証券を購入する場合はMRFが売却されて、購入代金に充てられるという方式を取っている証券会社もある。)。MRFは投資信託であるので、元本保証もなく利回りが確定しているわけでもない。しかし安全性が極めて高い商品で運用されているため、元本の安全性も高くなっている。米エネルギー大手・エンロン社の不正経理による破綻を受けて、2001年11月に日本のMMF5本が元本割れをした時には、該当するファンドの運用会社の役員(CIO等)が責任を取る事態となったこと考えると、MRFの運用は元本割れが想定できないほど十分な安全運用になっているものと想像できる。

図9.日本の代表的なMRFである野村MRFの運用状況(2023年6月30日現在)[4] 出所:野村アセットマネジメント

出所:野村アセットマネジメント

短期金融資産の発行体別保有明細表 出所:野村アセットマネジメント

Circle Reserve Fund と野村MRFの比較:

  1. 両ファンド共に為替リスクを取っていない。
    →ポートフォリオ内の資産のうち100%が自国通貨建てとなっている。
  2. 両ファンド共に短期金融資産100%の運用である。
    →ポートフォリオの平均残存日数は、野村MRFの平均残存日数は24日、Circle Reserve Fundの平均残存日数は14.62日となっており、Circle Reserve Fundの方が野村MRFより短期であり、比較的リスクが低いと言える。
  3. 組み入れ資産の発行体リスクは、Circle Reseve Fundの方が低い。
    →野村MRFは大手企業発行のCP等を多く含んでおり、Circle Reserve Fundは米国政府証券および米国政府証券で完全に担保された現先契約等のみとなっているため発行体リスクが低い。
  4. 両ファンドの運用管理コストは同程度である。
    →野村MRFは22bp程度(22bpを基準のコストとしており運用パフォーマンスにより運用コストは多少変化する。)、Circle Reserve Fundの運用コストは17bp程度となっている。もちろん運用コストを大きく上回るファンドのパフォーマンスが必要であるが、Circle Reserve Fundの運用コストを考えると、パフォーマンスを求めるためのリスクをとった運用の必要性がなく、こちらも安全性・安定性の一要因となる。

上記1から4の状況を考えると、Circle Reserve Fundは極めて低リスクの運用をしているとされる野村MRFよりも保守的な運用を行っており、元本割れのリスクがほとんどないことが理解できる。上記のことから「USD連動型の法定通貨担保型のステーブルコインの5条件」の4つ目の条件である、「4.裏付け資産の運用が非常に保守的で元本割れのリスクがほとんどないこと」の条件をUSDCは満たしていると考えることができる。

※4: 当章のグラフ及び表は2023年7月30日にBlackRock社のHP[5]から取得してる。
※5:グラフの表示期間及び、基準日(いつ時点を1としたものか)は示されていない。
※6 : 現先取引とは、債券などを一定期間後に一定の価格で買い戻すことを、あらかじめ約束して売買する取引のこと。買い戻す約束をした投資銀行が破綻して買戻しを行ってくれなくなるカウンターパーティリスクはゼロではないが、米国政府証券を担保とした現先取引は、売買する債券が米国政府証券であるために、たとえ買い戻す約束をした投資銀行が破綻しても超短期の米国政府証券を保有することになるだけで大きな問題にはならない。
※7 : Circle Reseve Fundのような政府短期金融市場ファンド(government money market fund)にあたるファンドは日本には存在しないために、比較的運用方針が近いMRF(マネー・リザーブ・ファンド)とCircle Reserve Fundを比べるとする。

3.独立会計士報告書(Deloitte &Touche LLP):

最後に2章で述べた「USD連動型の法定通貨担保型のステーブルコインの5条件」の5つ目の条件「5. 流通しているUSDCの額よりも裏付け資産の額が大きいという第三者証明が得られること。」に関するCircle社の取り組みに関して見ていく。Circle社は毎月USDC Reserve Report(USDC準備金レポート)を作成し、会計法人(Deloitte &Touche LLP)にCircle社のUSDC準備金レポートの「流通しているUSDCの額よりも裏付け資産の額が大きい」という主張に関する調査を依頼し、「独立会計士報告書」として公開している。

2023年5月30日の「独立会計士報告書[6]」では、Deloitte &Touche LLPは、USD Coin (「USDC」) の準備金で保有されている資産の公正価格が流通中の USDC価格(1USDC=1USD換算) 以上であるという (2023 年 4 月 14 日および 2023 年 4 月 28 日付の USDC準備金レポートにおける)Circle Internet Financial LLCの経営陣の主張を、定義されている計算基準及び米国公認会計士協会が定めた認証基準に従って調査した結果、Circle経営陣の主張は、すべて公正に述べられたものであると認証している。

このことから、前述した「USD連動型の法定通貨担保型のステーブルコインの5条件」の5つ目の条件、「 5. 流通しているUSDCの額よりも裏付け資産の額が大きいという第三者証明が得られること。」の条件は満たしていると言える。また「独立会計士報告書」の結果、5条件の2つ目の条件である「2. 裏付け資産が十分に確保されており(裏付け資産の額が流通しているUSDCの額以上であり)、USDCとUSDの交換が常に1:1の比率で行えること。」に関しても、条件を満たしていることが証明されたことになる。

4. おわりに

本レポートでは、Circle Reserve Fundの詳細とUSDCの信頼性について分析しました。USDCは、その裏付け資産が厳格に管理され、透明性が高いことから、法定通貨担保型ステーブルコインの中でも高い評価を得ています。特に、ブラックロックによる資産運用とDeloitte & Touche LLPによる監査は、その信頼性を裏付ける重要な要素です。今後も、USDCは世界的なステーブルコイン市場での役割を拡大し、日本国内での利用も含めたさらなる成長が期待されます。

参考文献

[4] : 野村アセットマネジメント. “野村MRF(マネー・リザーブ・ファンド)マンスリーレポート”. NOMURA マンスリーレポート. 2023-06-30. https://www.nomura-am.co.jp/fund/monthly1/M1220018.pdf (参照: 2023-07-30).
[5] : BlackRock. “USDXX - Circle Reserve Fund”. https://www.blackrock.com/cash/en-us/products/329365/circle-reserve-fund (Accessed: 2023-07-30).
[6]:Singh Timothy. “Independent Accountants’ Report”. Deloitte & Touche LLP. 2023-03-30. https://www.circle.com/hubfs/USDCAttestationReports/2023/2023 USDC_Circle Examination Report April 2023.pdf (Accessed: 2023-07-30).