Uniswap v3:オプション取引とその基本概要


目次

  1. はじめに
  2. オプションの概要
     1. オプションの定義
     2. オプションの売買
     3. オプションの分類とペイオフ
  3. おわりに
    参考文献

1. はじめに

DeFiプロトコル、特にUniswap V3[1]のような自動マーケットメイカー(AMM)を採用した取引システムでは、伝統的な金融市場と異なり、特定のマーケットメイカーがビッドとアスクを提示するのではなく、流動性供給者(LPer)が流動性を供給し、その在庫を基に価格が算出される。LPerは流動性供給による利益を期待できる一方で、Impermanent Loss(IL)によるリスクも抱えている。したがって、ILの影響やLPerのポジションの特性についての理解が重要である。

本レポートでは、まずオプションの概念や取引方法について解説し、基本的なオプションの分類やペイオフ構造について説明する。これにより、次のレポートで述べるUniswap V3とオプション取引の比較に向けた基礎を提供する

2. オプションの概要

本章ではオプション取引の概要や有用性、用語について紹介する。オプション(Option)はTradFiより存在する金融商品の一つである。オプションは株や債券から派生した(Derived)デリバティブ(Derivative)という商品群にスワップや先物とともに分類される。オプションは「リスクの移転」を行うために重宝され、今日まで発展した[5]。

2.(1) オプションの定義

オプションは「将来のある時点で原資産についてある価格で売買をする権利が定められている契約」と定義される。オプションの売買は原資産の売買の権利を対象としているので、原資産を必ずしも売買する必要はない。

オプション契約には最低限、下記の項目が定義されており、本節では各項目について慣例的に使われる記号とともに説明を行う。

  • 満期TT:オプションに定義されている売買の期限
  • 原資産SS:オプションに定義されている売買の対象物のことで株式から債券、オプションまで幅広く設定可能
  • 権利行使価格KK:オプションに定義されている原資産の将来の取引に関する売買価格オプションプレミアム(c,pc,p):オプションプレミアム(以下、プレミアム)とは、オプションの売買価格を指す

2.(2) オプションの売買

オプションの売買には必ずプレミアムの授受が伴う。例えば、オプションを購入する場合、必ずプレミアムを相手方に渡す必要がある。一方で、オプションの売却を行う場合、必ずプレミアムを受け取ることが出来る。つまり、下記のような構図の取引となる。

図1.オプションの売買とプレミアムの授受 出所:Next Finance Tech作成

オプションの取引において買い手の立場は売り手より強い。なぜなら、オプションの権利行使は買い手に選択権があり、売り手は必ず買い手に応じなければならないからだ。また、オプションの取引方法は2種類あり、株式のような取引市場での市場取引と、売り方と買い方が一対一で取引を行う店頭取引(Over The Counter)がある。

2.(3) オプションの分類とペイオフ

オプションの分類方法を3つ紹介したのちに、最も基礎的なオプションの種類であるヨーロピアンオプションのバニラなコールとプットの買い(以下、ロング)と売り(以下、ショート)の損益図を紹介する。最後に、本レポートで流動性供給との類似性を示す際のオプション取引のポジションであるカバードコールの概要を述べる。

オプションを権利行使のタイミングによって分類する際、下記3つに分類される。

  • ヨーロピアンオプション:満期日TTのみ権利行使が可能なオプション
  • アメリカンオプション:満期日TTを含めた、満期日TT以外にもオプションを所有している期間は常に権利行使が可能なオプション
  • バミューダンオプション:満期日TTを含めた、満期日TT以外にも制限付きでオプションの権利行使が可能なオプション

オプションを売買の権利によって分類する際、下記2つに分類される。

  • プットオプション(以下、プット):プットには「(義務を)課す」という意味があり、売る権利のオプション
  • コールオプション(以下、コール):コールには「(権利を)要求する」という意味があり、買う権利のオプション

オプションをペイオフの複雑性によって分類する際、下記2つに分類される。

  • バニラオプション(以下、バニラ):売買権利のペイオフが権利行使価格KKとスポット価格SSの差にのみ依拠し、権利行使価格KKと原資産価格SSの間に特殊条件が付与されていないオプション
  • エキゾチックオプション(以下、エキゾチック):バニラとは異なり、権利行使価格KKや原資産価格SSの決め方や権利行使価格KKや原資産価格SSの差、に特殊条件が付与されているオプション

エキゾチックは複雑なものが多く、個別性が強いため、基本的には相対取引による売買が多い。代表的なエキゾチックには、条件付きでオプション性が発動もしくは消滅するノックアウト・ノックイン、原資産価格SSの幾何平均価格をペイオフ計算に用いるアジアン等がある。

次に、ヨーロピアンオプションのペイオフについて説明する。本章で想定しているオプションの種類は、最もペイオフが基本的なバニラのヨーロピアンオプションである。ヨーロピアンオプションのコールとプットは下記のように定義され、ペイオフは下図のようになる。

  • コールオプション:満期TTにおいてmax(SK,0)max(S−K,0)
  • プットオプション:満期TTにおいてmax(KS,0)max(K−S,0)
図2.ヨーロピアンオプションの売買に関する損益図 出所:Next Finance Tech作成

この例における数値の単位はすべて円とする。上図は、満期における権利行使価格KK1,2501,250、かつプレミアムが1010のオプションのペイオフである。コールのロングの損益分岐点は、満期日TTにおいて原資産価格SS1,2601,260であり、1,2601,260を超える分が利益として得られる。一方で、コールのショートの損益分岐点は、満期日TTにおいて原資産価格SS1,2601,260であり、1,2601,260を超える分が損失となる。

オプションの取引戦略は、上記4つのペイオフと株式のロングとショートの組み合わせで作られる。本レポートではカバードコールと呼ばれる、株式のロングとコールのショートで作られるポジションとLPerのポジションを比較する。直観的に、カバードコールはプット売りに近い合成オプション(合成ポジションやシンセティック・オプションとも呼ばれる)である。カバードコール戦略を取る人のニーズに、売り指値で株を売却したい場合等がある。なぜなら、満期日TTに権利行使価格KKをスポット価格SSが上回った場合、コールのショートがコールをロングしている人に売られるからだ。通常の株式の売り指値と異なる点は、コールのショートをすることでプレミアムを得られる点にある。カバードコールは満期日において下記のようなペイオフを持つ。

図3.カバードコールのプレミアムを含む場合と含まない場合の損益図 出所:Next Finance Tech作成

図3.は株を2,4002,400でロングし、プレミアムc=10c=10かつ権利行使価格K=2,500K=2,500のコールをショートした場合の損益図である。合成オプションの考え方を用いた場合、このポジションは図4のように株式のロングとコールの売りに分解できる。

図4.カバードコールのペイオフを株とオプションの損益に分解 出所:Next Finance Tech作成

3. おわりに

ここまでで、オプションの基本的な概要について説明した。オプション取引は、特定の条件に基づくペイオフを特徴とし、リスク管理や戦略に応じてさまざまな応用が可能である。次のレポートでは、これらのオプション取引の特徴と、Uniswap V3における流動性供給者のポジションにどのような類似点・相違点があるかを見ていく。

参考文献

[1]:Adams et. al. “Uniswap v3 Core”. Uniswap v3. 2021-03-22.https://uniswap.org/whitepaper-v3.pdf(参照2023-04-05).
[5]:John C. Hull. Options, Futures, and Other Derivatives. Pearson. 2014. [9th Edition].