Uniswap:UNIトークンの分散性
目次
1.はじめに
2.UNIトークンの分散性
1. 投票権の分配
2. 投票権の行使割合(=ガバナンスへの参加度)
3. 潜在的な投票力と行使された投票力
3.おわりに
参考文献
1. はじめに
Uniswap DAOにおける重要な要素の一つがUNIトークンであり、その分散性はガバナンスの機能に大きな影響を与える。本レポートでは、UNIトークンの投票権分配や投票権行使の割合、さらには実際に行使された投票力について詳細に分析する。特に投票権がどのように分散しているのか、その集中度がUniswapのDAO運営に与える影響について考察する。
本レポートの執筆時点では約18.5億ドルもトレジャリーとしてUniswapに預けられており、その使用用途は基本的にDAOガバナンスによって決定されているため、大きな影響力を持っている事が分かる[2]。過去に”DeFi Education Fund”を立ち上げるのに2千万ドルのトレジャリーを割り当てる決定は物議を醸した事例もある[3]。
2. UNIトークンの分散性
本章ではUNIトークンの分散性について見ていく。3章でも触れた通り、UNIトークンの投票権の譲渡/委任の仕組みを活用する事で権力が集中化してしまう可能性がある。本章では、Uniswap DAOにおいては誰が権力を握っているのかについて見ていく。この分析についてはRobin Fritschらによる先行研究[8]があり、本レポートでは当該研究結果を引用しつつUniswapの分散性について解説していく。
一口に分散性といっても定義が曖昧であり、Uniswapの投票権自体はUNIトークン所有者に公平に与えられるため、投票権の配布のみのデータを追っても分散状況が捉え辛い。先行研究[8]では、下記3つの観点の分析を通じて分散性を分析している。
- 投票権はどのように分配されているか(投票権を委任した後)
- 投票権のどれくらい行使されているか
- 有権者の投票はガバナンスの投票結果にどこまで影響するか
上記3つの観点は、1、2を通じて投票行為の各ステップ時点での分散性を分析し、3で結果的にガバナンスの投票結果への影響を分析している。以降の分析結果では先行研究の結果を解説しており、データは2022年度3月1日時点のものである事をご了承頂きたい。また、近い将来、最新データを基にした分析結果もレポート化する予定である。
2.(1) 投票権の分配
本項では、投票権の委任後に、投票権はどう分配されているかを解説する。図6は、Uniswap DAO等における委任後の投票権の配分状況を可視化している。UniswapはCompoundと比較すると集中度合が低いものの、それでも一部の有権者に権利が集中している。
また図4のような分散性/偏りを測る指標として、統計学的な指数(ジニ係数、ナカモト係数)を用いて定量化する。この時、ジニ係数は0に近ければ、偏りが無い事(=分散性の高い)を示し、1に近ければ、偏りがある事(=分散性が低い)を示す。また、ナカモト係数は、端的に言えば、過半数を獲得するのに最低何名の有権者の票を獲得すれば良いかを表す数値である。実際にUniswap DAO等におけるジニ係数とナカモト係数は下表のようになる。
Uniswapにおいてはジニ係数が0.99前後となり、とても偏りがある結果となっている。これは世界の富の一般的な分布における偏りはとても低く、2021年度における富の分布のジニ係数は、米国で0.85、中国で0.70、日本で0.64、と推定されている[9]。また、Uniswapのナカモト係数は11となり、トップ11の有権者が同一の選択肢を選択した場合、過半数を超えて多数決に勝利する事が可能となり、こちらもあまり分散しきれているとは言い難い。
またUniswapのジニ係数とナカモト係数を経年変化で見る。ジニ係数は、図7(青線)のように時間が経っても(横軸はBlock Number、つまり時間軸を示す)、0.99付近を安定的に推移している一方で、ナカモト係数は右肩上がりの推移を見せている。これは、システムが時間と共に分散化されている事を示していると捉えられる。
総じて、Uniswap DAOはまだまだ一部の有権者に権力が集中しているが、徐々に分散化されているという風に解釈できるであろう。
2.(2) 投票権の行使割合(=ガバナンスへの参加度)
本項では、委任された投票権も含めて投票権がどれくらい行使されているかについて解説する。
まず、実際に投票権はどれくらいの割合で行使されているのだろうか?
図8(青折れ線)では、UNIトークンの総供給量に対して、委任された割合を示している。図の右端に注目すると、2022年3月1日時点ではUNIトークンの総供給量(10億枚)に対して約20%が委任されている事になる。これは、当時の流通量が総供給量の約2/3であることを踏まえると流通量の約30%に相当する。
さらに、図8(青点)では、投票率はUNIトークンの総供給量(10億枚)の10%以下と表しており、当時の流通量が総供給量の約2/3であることを踏まえると、流通量の約15%以下に相当する。これは米国の伝統的企業の株主総会での投票への参加率70%よりはるかに高い[10]。
また、図9(青折れ線)は有権者の総数の推移を示しており、そのうち投票している人数が図9(青点)で示される。縦軸が対数を取っている事に注意しつつ、右端に注目すると有権者の総数は1,000を超える一方で、投票者数は100を切っており、集中化されていることを示している。
2.(3) 潜在的な投票力と行使された投票力
本項では、投票された票のガバナンスへの影響度(有権者が持つ権力の大小と投票結果に及ぼす影響の関係性など)を検証する。有権者が投票を変更する可能性があることと、有権者が実際に変更することは別の事象であるため、有権者の投票力をKlingらによる先行研究[11]で定義された指標(”潜在的な投票力”と”行使された投票力”)で定義していく。まずそれぞれの指標の定義を以下で解説していく。
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潜在的な投票力
有権者の投票を変更する事で、投票結果を変える事が出来た頻度をはかる事で有権者の潜在的な投票力を定義する。下記(1)式においてとはそれぞれ、提案に対する賛成票の数と、反対票の数で、δd∈0,1は対象となる有権者が賛成(1)または反対(0)に投票したかを示している。簡単には、自分の投票結果を変更(Yes→No,No→Yes)したら結果が変わる場合は1、そうでない場合は0となる。
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行使された投票力
有権者の投票が実際に提案投票の結果を変える頻度、つまり有権者の投票がなければ結果が変わっていた頻度を測っている。
(1)(2)式に基づいて投票力(=Voting Power)をの平均値として定義して、Uniswapにおける潜在的な投票力(Potential Power)と、行使された投票力(Exercised Power)を下図で見る。
図10の右側に注目すると、大きな権力を有する有権者でも投票権を行使するのは非常に稀であるように見受けられ、現時点では投票結果に大きな影響を及ぼしていないように推察される。
3. おわりに
今回はガバナンス観点でUniswapをみてきた。Uniswapは古くからあるプロトコルであり、今もなおガバナンスプロセスが機能しているという観点ではすばらしいものと言える。
しかし、分散性という観点では2章で触れた通り、2022年3月時点ではあるがまだまだ投票権が少数のアドレスに集中している状態であると見て取れる。この点においては、Uniswapは既存企業(少数の大規模投資家が株主総会で意思決定を行っているため)と類似してしまっており、真の分散型金融と言い切れない側面もあるだろう。弊社としては、今後も、継続的にガバナンスプロセスがサステナブルに機能し続けるかという観点で注視していく。
参考文献
[2]:Open . OpenOrgs.info . ****https://openorgs.info/
[3]:Uniswapの「DeFi教育基金」作成ガバナンス提案に複数苦情で論争へ . NEXTMONEY|仮想通貨メディア . https://nextmoney.jp/?p=42929
[8]:Robin Fritsch et al. “Analyzing Voting Power in Decentralized Governance:Who controls DAOs?” . ETH Z¨urich , Apr 3 , 2022
[9]:Global Wealth Report . Credit Suisse . https://www.credit-suisse.com/about-us/en/reports-research/global-wealth-report.html
[10]:Konstantinos E. Zachariadis, Dragana Cvijanovic, and Moqi Groen-Xu. “Free-riders and underdogs: participation in corporate voting”. In: European Corporate Governance Institute – Finance Working Paper 649 (2020).
[11]:Christoph Carl Kling et al. “Voting Behaviour and Power in Online Democracy: A Study of LiquidFeedback in Germany’s Pirate Party”. In: Proceedings of the Ninth International Conference on Web and Social Media, ICWSM 2015, University of Oxford, Oxford, UK, May 26-29, 2015. Ed. by Meeyoung Cha, Cecilia Mascolo, and Christian Sandvig. AAAI Press, 2015, pp. 208–217.