Uniswap:DAOによるガバナンスの仕組み
目次
1.はじめに
2.前提知識
1. DAO(自律型分散組織)
2. 液体民主主義(Liquid Democracy)
3. Uniswap DAO
1. 概要
2. 提案/意思決定
3. ガバナンスプロセス(投票システム)
4. UNI(UNIガバナンストークン)
4.おわりに
参考文献
1. はじめに
数多くある DeFi プロダクトの中で、Uniswap は 2023年6月29日時点でDEX(Decentralized Exchange:分散型交換所)において、TVL(Total value locked:預け入れられている資産の総額)でみると首位を獲得している[1]。その背景にはDEXとしての機能性の高さ、投機/投資商品としての魅力の高さがあり、そのような分析報告は当社も含めて、インターネット上において多数行われている。しかしながら、当社のように安定的な運用戦略を検討する際は、DEXの機能提供がサステナブルに行われるかという観点で、ガバナンスやセキュリティ観点についても分析を行う必要性がある。
本レポートでは、本レポートでは、Uniswap DAOの構造、意思決定の仕組み、そしてその影響力について詳しく解説する。
2. 前提知識
2.(1) DAO(自律型分散組織)
本章ではUniswap DAOを理解するために理解しておく前提について触れていく。まず1つ目として、DAO(Decentralized Autonomous Organization)について解説する。
近年まで、中央集権型組織のようなヒエラルキー構造をした上意下達式の組織が一般的であった。しかし、Covid-19パンデミックやウクライナ戦争勃発などにも見られるように、不確実性の時代/VUCA時代が到来しており、組織の意思決定の前提条件が一瞬にして覆る時代に変化した。そのような時代・環境に対応する組織形態という背景で、DAOが注目を集めてきている。組織を構成するメンバーそれぞれが権限を有し、メンバー自身で意思決定を下して行動する組織の方が、外部環境の変化に対応しやすいからである。
更に、ブロックチェーン上のスマートコントラクトの登場により、DAOにおける意思決定が理論的には組織の運営コストを低下させられる事も相まって、DAOが着目されている。Uniswapにおいても、運営組織にDAOが用いられておりUniswap DAOと呼ばれる。
2.(2) 液体民主主義(Liquid Democracy)
次に、Uniswap DAOを理解するために理解しておく前提の1つとして、液体民主主義(Liquid Democracy)についても解説する。
近年、個人の多様性が顕在化し、人々の価値観は1つの尺度や観点でのみ測る事が難しくなっている。そのような個々人(時には利害が相反する個人)が、共同で包括的な意思決定を下す方法が求められつつある。
この問題に対する解は数世紀前に遡り、1884年に不思議の国のアリスを著したルイス・キャロル(本名:チャールズ・ドジソン)が、候補者が受け取った投票権利を他の候補者に譲渡(委託)できる投票システムを提案した[4,5]。今日、この概念は一般に液体民主主義と呼ばれ、直接民主主義と間接民主主義(代議制民主主義)のハイブリッドと見做す事ができる。下図のようなイメージで、投票権利を他者に委譲する事ができ、委譲された代表者は自身の権利と合わせた投票権利を有する。
近年では、ドイツ海賊党における党内投票でも活用されており、Uniswap DAOも同様な仕組みを取り入れており、1度だけ投票権の委任ができるようなガバナンスプロセスになっている。
3. Uniswap DAO
3.(1) 概要
本章では、Uniswap DAOについて話を進めて行く。Uniswap DAOを一言で表すとすればUniswapの運営組織である。Uniswapプロトコルの運営と改善のためのガバナンスの役割を為しており、Uniswapプロトコルとしての意思決定をサポートする機能を提供している。
ここで疑問を抱かれた読者もいるかもしれないが、Uniswapの運営組織であるのにUniswap プロトコルとしての意思決定を”している”ではなく、”サポートする機能を提供している”と表現したのは、Uniswap は分散型組織であるため、意思決定はUniswapの利用者によって民主主義的に行われているためである。UniswapのガバナンストークンであるUNIの所有者が、プロトコルに関する重要な決定の権利を有しており、分散化を実現しようとしている。
3.(2) 提案/意思決定
それでは、Uniswap DAOでは、運営や改善のためにどういう事を意思決定しているのだろうか。過去の提案を見ると、手数料に関する議論や[6]、新機能の追加[7]など、プロトコルの方向性についての議論・意思決定を行っている。
その中でも特筆すべきは、はじめにでも紹介したがUniswapの”DeFi Education Fund” の組成に関する提案である。これはHarvardLawBFIというハーバード大学の学生団体によって起案された、分散型金融の取り組みをサポートするために教育基金DeFi Education Fundの設立を企図するものであった。本提案は投票により施行されたが、当時は投票権を多く所有する組織によって中央集権的に決定されたのではないかと議論が起こった[2]。
3.(3) ガバナンスプロセス(投票システム)
本項では、Uniswap DAOのガバナンスプロセスについて解説する。Uniswapのコミュニティメンバーは提案を行い、それをUNIを用いて投票し多数決によって決定する。具体的なプロセスを以下で図解する。
また、多数決に大きな影響を及ぼす投票権の所有割合は保有トークン量に比例して決まっている。
そのため、UNIトークンの保有量が分散していれば権利は分散されているように見受けられる。
しかし、他のDeFiプロトコルのガバナンス同様に、Uniswap DAOにおいても投票権を他者に譲渡/委任する事が可能になっている。故に、投票権を譲渡/委任された代表者の権力が大きくなってしまい、分散性が担保されていると素直に言い切れないのが現状である。その点については4章で深く解説する。
3.(4) UNI(Uniswap ガバナンストークン)
本項では、前項に出てきたUNI(Uniswapのガバナンストークン)について、特にUNIトークンのユースケースと、入手方法、ディストリビューション(トークン配分率)について解説する。
3.(4).① ユースケース
まずUNIトークンのユースケースは、以下の3つに大きく分けられる。
- ガバナンストークン
- Uniswapの組織の意思決定を行うために利用可能
- ユーティリティ
- 仲介者による干渉のない決済手段として利用可能
- 投機/投資目的
- UNIの流動性ステーキングによる運用による投資目的として利用可能
このユースケースの割合は可視化されにくいが、DeFi自体を投機/投資目的で行うプレイヤーが多い事に鑑みると、まだまだ投機/投資目的で活用するUNIトークンの所有者が多いのではなかろうか。
3.(4).② 入手方法
次に一般的なUNIトークンの入手方法について解説する。入手方法は、以下3つに大きく分けられる。
- Airdrop
- 流動性マイニング報酬
- 暗号資産取引所での購入
2020年頃のUNIトークンがリリースされた当初は、ネットワーク取引を完了したユーザーにUNIトークンがAirdropされたり、流動性提供を行ったユーザーに対してリワードとしてUNIトークンが配布されていた。現在は、暗号資産交換所でのみ購入できる。
3.(4).③ディストリビューション(トークン配分率)
本章の最後にUNIトークンのディストリビューションについて解説する。Uniswapによると、Uniswapはコミュニティ主導でエコシステムが成長していくことを目指しているため、UNIトークンは多くをコミュニティに配布する形を目指している。
実際に、図4が2020年9月から2024年9月までのUNIトークンのディストリビューションの割合となっており、総供給トークンの6割がコミュニティに配布されるように設計されている。また、図5では、2030年9月までのディストリビューションを示しており、67.19%がコミュニティに配布されるように設計されている。
4. おわりに
Uniswap DAOはその設立から現在に至るまで、分散型ガバナンスの一例として注目され続けている。提案と投票のプロセスを通じて、決定はコミュニティ全体に反映されるが、投票権の分散度合いには課題が残る。特に、大規模な投資家や少数のアドレスが決定権を握っている現状では、完全な分散型とは言い難い側面が見受けられる。今後のUniswapのガバナンスが持続可能であるかどうかを見守ることが必要である。
参考文献
[1]:Dexs . DefiLlama . https://defillama.com/dexs
[2]:Open . OpenOrgs.info . ****https://openorgs.info/
[4]:Christoph Carl Kling et al. University of Koblenz-Landau. Voting Behaviour and Power in Online Democracy: A Study of LiquidFeedback in Germany’s Pirate Party .https://ojs.aaai.org/index.php/ICWSM/article/view/14618/14467
[5]:5 years of Liquid Democracy in Germany . The Liquid Democracy Journal, Issue 1 . https://liquid-democracy-journal.org/issue/1/The_Liquid_Democracy_Journal-Issue001-02-Five_years_of_Liquid_Democracy_in_Germany.html
[6]:Making Protocol Fees Operational - Proposal Discussion . Uniswap Governance . https://gov.uniswap.org/t/making-protocol-fees-operational/21198
[7]:Uniswap Interface . Uniswap . https://app.uniswap.org/#/vote/2/31