Uniswap:提供機能と運営組織の理解
目次
- はじめに
- Uniswap
1. Uniswap 概要
2. ①流動性供給機能
3. ②自動価格決定機能
4. ③両替機能 - Uniswap 運営組織
1. Uniswap DAO
2. Uniswap Labs - Uniswap ビジネス規模
- おわりに
参考文献
1. はじめに
数多く生まれたDeFiプロダクトの中で、Uniswap は 2023年6月29日時点でDEX(Decentralized Exchange:分散型交換所)において、TVL(Total value locked:預け入れられている資産の総額)でみると首位を獲得している[1]。暗号資産の交換所という分類で、比較対象範囲をDEXとCEX(Centralized Exchange:中央集権型交換所)に広げても、2023年6月29日時点での24時間あたりの取引量のランキングでは2位を記録している[1][2]。このため、Uniswapの分析レポートはインターネット上において多数行われているが、分析レポートの多くはUniswapというアプリケーションの説明に閉じたものが多い。
一方で、Uniswapを理解するためには、運営組織などにも触れつつ包括的に説明をした方が、わかりやすいと感じる。そこで本レポートは、「Uniswapはどんなユーザーに対して、どんな機能を提供し、どんな運営体が裏側で動いており、結果的にどれくらいのビジネスを行っているのか」をまとめている。DeFi初心者にも分かりやすいように、既存金融を比較対象に説明しているので、ぜひご一読頂きたい。
レポート構成としては、2章以降でUniswapについて解説していく。(図1参照)
従って一般的な内容の説明に留まっている事をご容赦頂きたい。詳細なレベルでの説明は「Uniswap 取引システム」や、「Uniswap ガバナンス」等のレポートを参考にしていただくのが良い。
図1. 既存金融とDeFiのイメージ比較
出所:Next Finance Tech作成
2. Uniswap
2.(1) Uniswap概要
続いて、Uniswapについて話を進める。Uniswapはイーサリアム・ブロックチェーン上で動作する分散型取引所である。Uniswapを活用すれば、ユーザーは世界中のどこにいても、仲介者を介さずに暗号資産を交換する事が可能である。また、Uniswapはイーサリアムの「ERC-20規格」等に準じて発行された暗号資産を取り扱い可能である。
上記機能の特徴を踏まえると、Uniswapは暗号資産の取引所(両替所)と言うことができる。①資金の提供者が予め資金を取引所に入れておき、②スマートコントラクトが売値を自動的に決めて、③両替希望者は買値成行で両替を実施する、というシステムである。
以下、①②③のそれぞれについて説明する。
2.(2) ①流動性供給機能
流動性供給とは、Uniswapという両替所に、両替資金を提供することである。資金は通貨ペア毎に提供※4、別の通貨ペアと共用することはない。つまり、BTCとETHの交換に供給した資金は、BTCとETHの交換にのみ適用される。以降、拠出済みの流動性供給の総額に、両替に伴う資金の増減を加減算した純額※5を「流動性供給額」と呼ぶ。流動性供給額は、Uniswapの取引所(の各プール)に蓄積されている暗号資産の数量そのものである。
後述の両替では手数料の徴収があり、手数料は流動性供給者の資金提供量に応じて、比例配分される。これが流動性供給者の収益(手数料収入)になる。
Uniswapへの資金供給の比率は、Uniswap V2(以下、「V2」)とUniswap V3(以下、「V3」)によって異なる。V2では、常に供給時点での交換レートは定式で表現される。他方V3では、交換レートと流動性供給範囲の関数として定まる。
2.(3) ②自動価格決定機能
自動価格決定とは、Uniswapの根幹をなす、価格決定方法のことをいう。
前項章での話から、金融商品の市場には取引所と販売所が存在し、前者においては、売値と買値が提示されることが前提となっていた。Uniswapは、拠出済みの流動性供給額から、自動的に売値と買値(正確には交換レートの気配値※6)を計算する仕組みを備えている。
2.(4) ③両替機能
両替機能とは、Uniswapを用いてある暗号資産と、他の暗号資産を交換できる仕組みの事を言う。
前項で説明した自動価格決定機能によってBTCとETHの交換レートが決定され、両替が行われる。
※4:より厳密には、pool(通貨ペア+手数料率区分)単位で供給する。
※5:「純額」とは、拠出額を加算し、引出し額を減算した額のことをいう。
※6:「気配値」とする理由は、実際の交換額は、提示されている交換レートよりも不利な金額になるためである。理論的には、Uniswapの提示レートは、交換金額が(数学的に)ごく少額のときの提示価格であり、交換金額の増加に伴って、買値は漸増する仕組みとなっている。こうして生まれる”事前に提示された交換レート”と”実際に約定した交換レート”の差額の事を「Slippage」と呼ぶ。
3. Uniswap 運営組織
3.(1) Uniswap DAO
前章まで、両替を行うDEXとしてのUniswapの概要/機能を解説してきたが、本章ではUniswapの運営主体であるUniswap DAOについて解説する。
そもそも、DAOとはなんだろうか。DAOはDecentralized Autonomous Organization(自律分散型組織)の略称で、”特定のリーダーが存在せずとも、参加者同士が協力して事業やプロジェクトを推進していくコミュニティ”を意味する。通常の中央集権型組織と比較すると、ヒエラルキー構造による上意下達組織が廃止されて、合議制によって組織の意思決定が行われる事が特徴である。
Uniswapの運営組織に話を戻すと、UniswapはUniswap Labsという企業が開発を主導しているが、それとは別にUniswap DAOというUniswapプロジェクトを運営する組織が存在する。当該組織はUniswapの運営をする代わりに、顧客の取引の一部を手数料として売上を挙げている。Uniswapのビジネスについては第5章で解説する。
Uniswap DAOの運営とは何をしているのだろうか。代表的な役割として、Uniswapの取り組みの方向性を合議制によって意思決定することを行っている。意思決定の仕組みはUniswap DAOの参加者が提出した提案に対して、Uniswap DAOの参加者が持つUNI(ガバナンストークン)を投票し、多数決で方向性を決定している。以降でUniswap DAOでの意思決定の事例を紹介する。
- 新規ブロックチェーンへの展開可否
- Uniswap V3を新しいAvalanche(ブロックチェーン)へ展開[3]
- Uniswap V3をBNBチェーンへデプロイ [4]
- オペレーション/ガバナンスプロセス変更可否
- Uniswap DAOと外部関係者との間のライセンス/パートナーシップ契約をサポート/説明委員会の設立 [5]
- Uniswap DAOコミュニティのガバナンスプロセスの変更 [6]
- その他
- Uniswap財団の立ち上げ [7]
また、UNIの主な獲得方法は、流動性供給の報酬として獲得する方法と、海外の暗号資産取引所で交換して取得する方法と、エアドロップによる獲得がある。ただし、2023年6月末時点では、暗号資産取引所での交換を通じて取得する方法のみとなっている。
3.(2) Uniswap Labs
本項では、もう一つの運営組織であるUniswap Labsについて解説する。Uniswap Labsチームは、主にUniswap プロトコルの開発を目的に設立された組織である。Linkedinによると[8]、若干28歳のCEOであるHayden Adamsのもと、2023年6月末時点ではLinkedin上は133人の従業員が登録されている。
メンバーの内訳をみると、48名がエンジニアリングとして登録されており、約4割のメンバーがエンジニアで構成されている。また、メンバーの出身校を見ると、UC Berklayがトップの9名で、次に、4名でBrown University、UCLA、Columbia University、Harvard Business Schoolが並んでおり、アメリカの優秀な学歴を持つメンバーが集まっている。
出所:LinkedInよりNext Finance Tech社作成
会社の成り立ちについて触れると、Uniswap Labsは、2018年に、製造大手のシーメンスでエンジニアをしていたHayden Adams[9]と、大学時代の友人で、当時コンセンシスのブロックチェーンエンジニアをしていたKarl Floerschによって立ち上げられた。その後、イーサリアム財団Viatlikとのコラボレーションしつつ、イーサリアム財団の助成金等も受けながらUniswapを立ち上げた。
4. Uniswap ビジネス規模
本章では前章までで見てきたUniswap のビジネスモデルについて見ていく。お気づきの方はいると思うが、Uniswapは、Uniswapを通じた取引の手数料によって収益を上げている。
下図で直近1か月のUniswap V3における手数料(≒売上)を見ていく。
直近1か月の1日当たりの平均売上高は98万ドル程度あり、年間の売上高に換算すると、3億5780万ドル(約500億円)となる。これは国の違いや、市況等により同一条件での比較にはならないが、国内暗号資産交換所の売上高が数十億円から数百億円規模であることを踏まえると、一定の規模感があることがわかる。
5. おわりに
本レポートでは、代表的なDEXであるUniswapについて、ビジネスサイドの人にもわかりやすく、一般的に纏めた。振り返ると、Uniswapは流動性供給機能と、自動価格決定機能と、両替機能を有するDEXであるという事がメインポイントであったと思う。またUniswapは手数料収入を通じて日本の暗号資産交換所と伍する規模まで大きくなっている。今後も暗号資産の普及と共にこの規模感は拡大される事が想定されるため動向には要注目である。
参考文献
[1]:dexs . defiLlama . https://defillama.com/dexs
[2]:Top Crypto Exchanges Ranked by Trust Score . CoinGecko. https://www.coingecko.com/en/exchanges
[3]:Deploy Uniswap V3 on Avalanche .Messari. https://messari.io/governor/proposal/aebcb011-2695-46fe-98b6-58a568b9bd24
[4]:Deploy Uniswap V3 on BNB Chain . Messari. https://messari.io/governor/proposal/830e4931-5f9e-45b7-a5fe-712534710434?daoSlug=uniswap-governance&daoTab=proposals
[5]:Deployments Accountability Committee . Messari. https://messari.io/governor/proposal/7c82aa73-4de9-46d3-afe2-e72edd14cbff
[6]:Community Governance Process Changes . Messari. https://messari.io/governor/proposal/121d83ff-b753-4c65-8bae-6aafd5978e9e
[7]:Create the Uniswap Foundation . Messari . https://messari.io/governor/proposal/9816e50b-c76f-4f04-a6b0-8f61639c7853
[8]:Uniswap Labs: 概要 | LinkedIn . Linkedin . https://www.linkedin.com/company/uniswaporg/about/
[9]:Forbes 30 Under 30 2023: Finance . Forbes . https://www.forbes.com/30-under-30/2023/finance